元プロ野球投手として通算244勝を挙げ、監督としては5度の日本シリーズを制覇した工藤公康(くどう・きみやす)さん。“中間管理職”としての野球監督のあり方や組織運営、試行錯誤しながら生まれたリーダーの姿などについてつづった『プロ野球の監督は中間管理職である』(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓しました。「中間管理職」について、工藤さんにお話を伺いました。
「こんなやり方があるんだ!」という視点で楽しむ
――現在は野球解説者としてもご活躍中ですね。新しいことに挑戦するときに意識していることを教えてください。
工藤:現役を退いて3年間キャスターの仕事に挑戦したのですが、いろいろなことを体験できました。コメントを覚えたり、映像を見ながらコメントしたり……。私よりもはるかに若いテレビ局のスタッフさんに「もっとこうしてください」とか「もっとこういう言い方にしてください」と言われて、時にはカチンとくることもありました。
でも、私よりずっとテレビのことに詳しい彼らに「私はこうするからいいんだよ」と言ってしまったら終わりです。そうではなくて、「こんなやり方があるんだ!」「こういう言い方をすると視聴者にわかりやすく伝わるんだ!」という視点で受けとめると新しい発見がある。
違う場所に行って違う仕事をするときにそういう考えを持っておくと、若い子たちの言葉にもまずは耳を傾けようと思うのです。
11回の優勝より遥かに嬉しかった「5年でたった1回の優勝」
――経験があるからこそつい「これは私のやり方だから」と言ってしまいそうになるときもあるのですが、職場でも自分より若い世代や年下の人たちに教えてもらうことはたくさんあるなあと。
工藤:転職とまではいかないかもしれないですけれど、同じ業界で役職が変わることもあると思います。例えば私はFAで違う球団に行ったこともありますが、チームが違えば全く違う野球です。
でもある程度の年齢と経験があるとそれ相当の期待もされます。だから、プレッシャーというのはどこに行ってもあるのです。プレッシャーがないということはない。苦しいけれど、頑張ってきたことほどうまく行った時の達成感や喜びは大きいのではないでしょうか。
私は西武ライオンズに在籍していた13年間(1982年〜94年)で優勝を11回経験しているのですが、当時Bクラス(6球団中4位以下)だったダイエーに移籍したときは5年かかってやっと優勝できました。でも私にとってはその1回の優勝のほうが遥かに嬉しかったです。
苦しかった5年間を振り返れば振り返るほど、「あんなふうに言われたけれど、こんなふうにやってきたなあ」とか、選手に嫌われても「『これが大事なんだ』と言い続けてきたなあ」とか走馬灯のように思い出せば思い出すほど、喜びも大きかったですね。