いくつになっても快感を味わい、円熟脳をつくる

人生の後半生を楽しく、有意義なものにするには、なにはともあれ脳を活性化することが必要です。そして、その脳の活性化には、とにもかくにも、「いい気持ちになる」こと、「快楽を追求する」ことが欠かせないということです。


こうした円熟した脳が味わうことのできる、深くてすばらしい快感は、昨今のヴァーチャル世界がもたらすような、身体感覚をともなわない、仮想世界とはまったく質の違うものです。現代社会では、五感のうちでも、あまりにも視覚偏重になっています。


生まれたときからテレビを見て育った世代からすれば、テレビゲームやコンピュータのヴァーチャル・リアリティの世界に親しむあまり、仮想現実と現実との区別があいまいになっています。いまのヴァーチャル世代は、過剰な視覚とほんのわずかな聴覚の世界にとじこもって、体をほとんど動かそうとしません。これでは、触覚、嗅覚などから受ける刺激が乏しくなり、脳は未熟なままで発達せず、ほんとうの五感を通じて得られる、深く、すばらしい快楽の世界を知ることはできないでしょう。


いってみれば、仮想世界から得られる快感は、動物園の檻にとじこめられたチンパンジーのマスターベーションのようなものです。さんざんやりまくって、もはや感動もすり切れた状態です。その快感は、たった一回、生身のメスとするセックスのすばらしい快感にはとうていたちうちできない、間に合わせの快感にすぎません。


ヴァーチャル・リアリティにかぎらず、これまで現代社会は、間に合わせの快感にみちみちています。しかし、そんな貧しい、みすぼらしい快感だけに頼っていたのでは、人間はとうてい生き抜いていくことができないと思います。そんな砂を噛むような人生は、ごめんこうむりたいものです。ヒトの脳は、鍛え方によっては、何歳になろうが、深い快感を味わえるようになります。そうしたすばらしい円熟脳を作り上げることができるのです。
 

大島清
医学博士