脳には快感を味わう仕組みが整っている

私は、円熟とは「自分で生きる楽しみを発見し、それにチャレンジし、かつそれを十二分に楽しめるようになること」としました。これを脳の働きでいえば、「円熟とは、脳が五感のすべてで快感を得られるようにすること」になります。つまりは、「五感を刺激して、脳がより深い快感を得られるように鍛えれば、脳も円熟していく」ということになります。


では、そもそも脳と快感の関係は、いったいどうなっているのでしょうか。近年、ヒトがその脳内にさまざまな麻薬物質を発生させることが広く知られるようになってきました。ここで脳と快感の関係をすこし整理してみます。


麻薬レセプター(受容器)というものが脳のなかにあることがつきとめられ、さらには「脳内麻薬」が発見されました。この脳内麻薬は、モルヒネなどの麻薬と似た作用を示す物質で、脳内に自然状態で分布していることがわかりました。痛みやストレスにさらされると多く分泌して、それらを和らげる働きをします。脳内モルヒネとも呼ばれ、代表的な物質としてドーパミンとベータ・エンドルフィンがあります。


「ドーパミン」は、アミノ酸の一つであるチロシンから作られるアミンの一種です。じつをいうと、このチロシンは、脳内麻薬どころか、実際の麻薬の主成分そのものなのです。ドーパミンは、脳を覚醒させ、快感を誘い、創造性を発揮させる神経性伝達物質です。私たち人間は、脳ミソのなかで気持ちよくなるための麻薬を、自ら生産していたというわけです。


ドーパミンは、脊椎動物が生きていくうえで受ける強い痛みや、過酷なストレスに耐えるためにつくり出されるようになったと言われています。そして、とくに感性の強くなったヒトでは、それが大量生産されるようになったということです。


脳内麻薬は、忍耐力とか創造力を発揮するときにも、おおいに威力を発揮することも、研究で明らかにされてきています。また、脳内麻薬と免疫系にも直接的な関係があるらしく、免疫細胞がDNAにより、究極的にACTH(副腎皮質刺激ホルモン)やベータ・エンドルフィンを作ることも証明されています。このベータ・エンドルフィンも脳内麻薬の一つです。視床下部や脳下垂体の神経細胞に存在します。


いい気持ちになる日が多く、ハイな気分になることが多ければ、ベータ・エンドルフィンが脳内に充満して、免疫力を強くし、ガンや病気にもかかりにくくなり、長生きできるというわけです。また、快感神経というのもあります。これは、ネズミの脳のある部分を電気刺激すると、ネズミがその刺激を好むことから、マギル大学(モントリオール)のジェーム・オールズによって発見されたものです。人間もこの神経を電気刺激されると、「気持ちがいい」「緊張から解放される」と感じるのです。この快感神経のシナプス(神経細胞間のつなぎ目)で先述のドーパミンが活躍しています。


こうした脳の仕組みを見ていくと、脳がいかに快感を求めているかがわかります。