近年増加する、熟年離婚。もうすぐ65歳を迎える土屋正広さん(仮名)も、妻との不仲に悩む一人です。本気で離婚を決意した彼が「ある事実」を知り、離婚の意思を撤回します。一体、彼の身に何が起こったのか? 年齢差のある夫婦であれば、決して人ごとではない事例を、ファイナンシャルプランナーである辻本剛士氏が解説します。
アナタの洗濯物、もう洗いたくないの…優しさのカケラもない年下モラハラ妻に、〈年金月18万円〉の65歳・元会社員「離婚」を決意も、「まさかの年金ルール」を知り、秒で撤回したワケ【FPの助言】
土屋さん夫婦はFPから加給年金について教えてもらう
ある週末、久しぶりに電話をかけてきた長男に、ふと今の経済状況があまり良くないことを話した正広さん。
心配した長男は、以前お世話になったファイナンシャルプランナー(FP)を紹介し、一度相談することを提案します。藁にもすがる勢いで、土屋さんはFPのもとへ足を運びました。
FPは、土屋さんの家族情報や収支状況を一つずつ確認していきます。すると、FPは土屋さん夫婦の年齢や加入している年金、加入年数などを見て「あること」に気づきます。FPは、土屋さんに衝撃の事実を告げます。
「土屋さんの場合ですと、加給年金が適用されるため、年間で約40万円の年金が受け取れますよ」
正広さんは「加給年金で40万円⁉ それ本当ですか?」と興奮し、FPに再度確認しました。
FPは説明を続けます。
「年下の配偶者や18歳未満の子どもなどがいる場合に支給される加給年金というものがありまして、土屋さまの場合、奥さまが今年60歳になりますので、65歳までの5年間、加給年金として23万4,800円、特別加算として17万3,300円が支給されます。」
土屋さんは驚きつつも、ある疑問を抱きました。
「でも先生、以前届いたねんきん定期便には、そのようなことは記載されていませんでしたよ。もしかして、うちは、何か条件を満たしていないってことでしょうか?」
FPは、「いえ、加給年金はすべての加入者が受給できるものではないので、ねんきん定期便には記載されないのです」と説明しました。
正広さんはその言葉を聞くと、喜びが抑えきれなくなり、「やった! 年金が増える!」と、思わず歓喜しました。普段の正広さんらしからぬ反応でしたが、それほどまでに、65歳からの老後生活に対して不安を感じていたのでしょう。
FPはさらに説明を続けます。
「奥さまが65歳になるまで、総額200万円の加給年金を受給できるので、65歳時点で資産が枯渇することは免れそうです。そして奥さまが65歳になると加給年金は停止されますが、そこからは老齢基礎年金の受給が開始されるので、ひとまず危機は回避できそうですね。」
「また、65歳になる3ヵ月前に年金請求書が届くので、その際に加給年金の請求を忘れずに行ってください。ただし、経済的にまだまだ安全な領域ではないので、必要な際はまたお越しください」
FPに感謝の気持ちを伝え、安堵の表情でFPの事務所を後にし、家路に着いた土屋さんは、
「離婚してなくてよかった……」としみじみ呟いたのでした。