新型コロナウイルスやインフルエンザなどの罹患は誰でも避けたいものです。「風邪だから病院に行きたいけれど、待合室でほかの患者から感染症をうつされたら元も子もない」そんな不安を感じたことがある人は少なくないでしょう。しかし、医師の松永正訓氏によれば、「待合室で感染することは、まずない」とのこと。今回は松永氏による著書『患者の前で医者が考えていること』(三笠書房)から一部抜粋し、感染症に関する誤解や病院側の対策についてご紹介していきます。
不安をあおる「人混みを避けましょう」
では、視点を変えて、保育園や幼稚園に行っていない子が、インフルエンザなどに罹ることはあるのでしょうか。これはほとんどありません。まず見たことがありません。そういう子どもが発熱すると、保護者はインフルエンザではないかと心配してクリニックを訪れます。
「お母さん、一応検査してみますか?周囲にインフルエンザの人がいなければ、この子も違うとは思いますが」「でも、昨日、大型スーパーに行ったんです。けっこうたくさん人がいたので、そこでうつったのかなと思って」
こういうパターンで検査をしますが、陽性になった子を見たことがありません。大型スーパー・電車内にはもちろんたくさん人がいます。インフルエンザ流行期には、よく「人混みを避けましょう」などという注意喚起がされますよね。
でも、大型スーパーは、人と人が行き交っていて、人同士が話したり、遊んだり、食事を共にする場所ではありません。要するに、三密にはなっていません。電車の中も、基本的にみんな無言ですからウイルスが広がることがありません。
集団生活をしていない子のインフルエンザ陽性というケースでは、よく保護者に話を聞いてみると、前日に児童館で数時間過ごしたとか、そういう話が必ず出てきます。かなり密に、そしてかなり長時間、一緒にいないとインフルエンザはうつらないというのが私の結論です。一瞬、顔が向き合ったくらいではうつらないものです。
徹底した感染対策を実施しています
私は、多い日には1日に35~40人以上のインフルエンザに罹った子を診ます。ワンシーズンには数百人です。至近距離で検査をしますから、くしゃみを浴びたりします。朝から晩までという感じですよね。
でも、患者さんからインフルエンザをうつされたのは、18年間で1回だけです。でもそうは言ってもウイルスは目に見えませんから、待合室の空気中にはウイルスがウヨウヨ……そんな印象を持ってしまうのは仕方がないと思います。クリニックによっては、待合室から出てはいけないというルールを課しているところもあると聞きます。うちのクリニックの場合、それはありませんから、待合室がイヤという方は車内で待機してもらっています。
2020年の新型コロナの流行からは、当院では冬でも窓は開けてあります。空気清浄機も最新の物に買い直しました。病気の種類に関係なく、保護者も患者さん(3歳以上)も、全員マスクの着用をお願いしています。拒否する人には会ったことがありません。
こうした感染対策はどこのクリニックでも同じだと思います。それから大学病院などの大きな病院では、そうした感染症をうつされる可能性はさらに下がります。まず待合室がクリニックとは比較にならないほど広い。そして発熱のある患者さん(子どもでも大人でも)は、病院を受診してはいけないルールになっています(緊急の場合は別)。
大学病院の小児科外来には、自己免疫疾患などでステロイドを飲んでいる子や、がんの子どもがたくさんいます。こういう子どもたちは免疫能が低下しています。たとえ発熱がなくても風邪をひいている状態で、大学病院を受診するのはNGです。それは知っておいてくださいね。
・相手と会話をしたり遊んだりしない限り、待合室での二次感染はない
・どこのクリニックも病院も、換気や消毒などの感染対策は徹底されている
松永正訓
医師