年を重ね、身体の自由が段々と制限されてくると、“終の棲家”として「老人ホームへの入居」を選択するケースが増えていきます。しかし、老人ホームは入居したら安心というわけではなく、退去を選択するケースも珍しくありません。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが、具体的な事例をもとに、高齢者施設を選ぶ際の注意点について解説します。
預金1億円・年金暮らしの75歳女性、タワマン売却→高級老人ホーム入居に大満足のはずが…わずか9ヵ月で退去したワケ【FPが解説】
息子の携帯にかかってきた「1本の電話」
それから1週間後、施設のスタッフから息子の携帯に連絡がありました。出てみると、「お伝えしたいことがあるので、1度施設へご来所いただけないでしょうか」と言います。
急いで息子夫婦が駆けつけると、スタッフは浮かない表情で次のように言いました。
「A様は認知症のようです。おそらく、施設に入られたことによる環境の変化やストレスに加え、入院で寝たきりの状態が続いておりましたので、症状が進行しているようです。非常に言いづらいのですが、退所をご検討いただけますでしょうか」
息子夫婦は、衝撃を隠せません。
「ええと……万が一のときも対応してくれるって言ってましたよね? 母の“終の棲家”としてここを選んだのですが、いったいどういうことでしょうか?」
「当施設では、認知症の方への対応が難しく……誠に申し訳ございません」
「そんな……」
入居してからわずか9ヵ月、Aさんは早くも、高級老人ホームを退去するはめになってしまったのでした。
安易に決断する前に「入居後のリスク」を考慮して
今回のAさんのように、自宅を引き払ってから老人ホームへ入居する場合、入居したあとに予期しない事態が起こったり、本人が「自分には合わない」と思ったりしても、簡単に自宅へ戻ることはできません。
したがって、入居を決断する前に、「入居後に発生しうるリスク」をきちんと確認することが大切です。施設によって、認知症に対応していなかったり、看取りには対応していなかったりと、退去となってしまう条件が存在します。
その際、施設の「看取りの実績」も把握しておくといいでしょう。看取りの実績が乏しい場合、今回のように健康状態が悪くなった場合、継続して住むことが難しい可能性があります。
また、施設を見学する際は、入居者やスタッフの雰囲気、設備なども大切ですが、「入居契約書」や「重要事項説明書」などで、退去しなければならない条件や医療機関との連携状況をしっかりと確認するようにしましょう。なかには、施設見学のみならず、食事の試食会や体験入居ができるところもあります。
あらかじめ認知症になることを想定して行動できる人は決して多くありません。しかし、長寿化にともなって、認知症患者も着実に増えています。決して他人事と思わず、認知症になる可能性を頭に入れて施設を選ぶ必要があるでしょう。
予算と合わせて、入居する本人にとって最期まで快適に過ごせるかどうか、よく考えて入居を決める必要があります。
老人ホームへの入居を検討するタイミングは人それぞれですが、入居時に慌てなくても済むよう、元気なうちから施設見学会などに参加しておくことをおすすめします。
「老人ホーム」と聞くと、大人数が詰め込まれ、暗い雰囲気の施設をイメージする人もいるかもしれませんが、昔とは違い、明るい雰囲気の施設も増えています。ただ、多様化が進んでいることから検討事項も増えているため、ぜひ元気なうちから準備を始め、自分や家族にぴったりの“終の棲家”を探してみてはいかがでしょうか。
武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役