年を重ね、身体の自由が段々と制限されてくると、“終の棲家”として「老人ホームへの入居」を選択するケースが増えていきます。しかし、老人ホームは入居したら安心というわけではなく、退去を選択するケースも珍しくありません。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが、具体的な事例をもとに、高齢者施設を選ぶ際の注意点について解説します。
預金1億円・年金暮らしの75歳女性、タワマン売却→高級老人ホーム入居に大満足のはずが…わずか9ヵ月で退去したワケ【FPが解説】
「高級老人ホーム」への入居を決断した75歳のAさん
75歳のAさんは、開業医の夫を持つ専業主婦でした。数年前に夫を亡くしてからは、最寄り駅からのアクセスが悪いと、思い切って長年住んでいた広い自宅を売却。子どもたちからの勧めもあり、バリアフリーが整った駅近のタワーマンションに移り住み、快適に過ごしていました。
しかしある日、「災害でタワーマンションのエレベーターが止まった」というニュースをテレビで観てから、引っ越しを検討するようになりました。
息子に相談したところ、「俺たちの家の近くに高級老人ホームがあるんだけど、入居者を募集しているみたいだよ」と教えてくれました。
そこで早速、息子夫婦とともに内見に行くと、入口は天井が高く豪華なシャンデリアが飾られ、まるで高級ホテルのようです。
他にも、ジム、シアタールーム、温水プールが設置されており、設備は申し分ありません。働いているスタッフもみなホスピタリティが高く穏やかで、入居者たちも気品にあふれています。
「私もここに住みたい!」Aさんはタワマンを売却し、高級老人ホームに入ることを決断しました。
入居費用は約5,000万円ですが、タワマンの売却費用で十分賄うことができました。この時点でAさんの預金は約1億円と、金銭的にはなんの問題もありません。
そして、いよいよ憧れの高級老人ホームでの暮らしがスタートし、大満足のAさん。しかし……
転倒し、骨折…退院後、息子夫婦が気づいたAさんの「変化」
ある日、夕食のため食堂へ向かっている最中のことです。Aさんは廊下で転倒し、大腿骨頸部を骨折。病院を受診したところ、入院することになりました。
数日間は寝たきりの状態が続きましたが、無事入院治療を終え、施設に戻ったAさん。面会時、戻ってきたことに安堵した息子夫婦でしたが、Aさんの様子がなんだか以前と違っています。
目が虚ろで、心ここにあらずといったように見えたので、息子は施設のスタッフに次のように伝えました。
「母は大丈夫でしょうか? なんとなく様子がおかしい気がするのですが……」
「そうですね、退院されたばかりですし、少し様子を見ましょう。スタッフ間でも情報を共有し、注意してみておきますね」とスタッフはいい、その日の面会を終えました。