核家族化が進む日本では、子どもが都市圏に住み、親は地方に1人で暮らしているというケースが少なくありません。子どもとしては、近くに住んでもらって安心したいところですが、ここで選択を誤ると、思わぬ悲劇に見舞われることも……具体的な事例をもとに、介護施設への入居を検討する際の注意点をみていきましょう。実際に介護施設での勤務経験もある株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが解説します。
部屋に泥棒がいる!〈高級老人ホーム〉で優雅に暮らす86歳母からのSOS…急ぎ駆けつけた51歳長男の目に飛び込んできた「まさかの光景」【FPの助言】
突如訪れた“平穏な日常”の終わり
ある日、Bさんの携帯にAさんから電話がありました。電話に出ると、Aさんが取り乱した様子でこう言います。
「B! 部屋に泥棒が入ってきたの! 早く来て!」
「まさか、あの施設に限ってそんなことがあるはずがない」と考えたBさんでしたが、母親の取り乱し方に驚き、とにかく実際に確認するため急いでAさんのところへ駆けつけました。
Bさんが目にした「衝撃の光景」
そこでBさんが目にしたのは、怯えながらベッドで布団を被るAさんの姿でした。部屋を荒らされた形跡はなく、前来たときと同じようにきれいに整っています。
Bさんは、Aさんに声をかけてみました。
Bさん「おふくろ! 大丈夫か!? 泥棒って!?」
Aさん「あぁ~Bありがとう……ちょっと、まだいるわ! ほらそこ! 助けて!」
Bさんは愕然としました。Aさんが指差していたのは、窓ガラスに映るAさん自身の姿だったのです。
Bさんは優しくなだめますが、Aさんは怖がって布団から出てきません。
とにかくこの場をなだめるため、Bさんは静かにカーテンを閉め、Aさんを安心させました。そして、スタッフにいまあったことを報告し、施設を出ました。
後日、Aさんを連れて病院で検査を受けたところ、Aさんには認知症の症状が出ていることが判明。思い返すと、たしかに近頃は物忘れが激しく、何度も同じ話をするなど、認知症の症状が表れていたように思います。しかし、「年のせいかな」とBさんはあまり気にしていませんでした。
それがいつの間にか、自分の姿を泥棒と勘違いするまでに症状が進んでいるとは……。Bさんは、「これからどうしよう」と途方に暮れてしまいました。
なぜなら、その高級老人ホームは軽度の認知症までしか対応しておらず、認知症が進行し重度になると「共同生活を送ることが難しい」と判断され、退去しなければならないルールがあるためです。