世帯年収は軽く2千万円を超えた「パワーカップル」だったAさんBさん夫婦。タワーマンションに住み、娘二人と仲睦まじく暮らしていたところ、夫Bさんがまさかのバイク事故で帰らぬ人に。遺族年金にすがろうと妻Aさんが年金事務所へ向かうと、そこではまさかの年金を受け取れない事態が……。本記事では、角村FP社労士事務所の特定社会保険労務士・CFPの角村俊一氏が、AさんBさん夫婦の事例を通し「遺族年金」を受け取れる「遺族」の条件について詳しく解説します。
「うちはパワーカップルだから安心ね」と思ってたのに…42歳妻を襲った45歳・最愛の夫の死。年金事務所で知らされた〈衝撃の一言〉に絶句したワケ【社労士が解説】
一緒に暮らしていただけでは遺族にならない?
さて、遺族基礎年金と遺族厚生年金に共通した要件にお気づきでしょうか?
いずれも遺族の要件として、「死亡した方に生計を維持されていた」とあります。遺族年金は先にみたとおり「一家の支え手が亡くなった場合に遺された家族の生活を支える給付」ですから、遺族年金を受給するには「生計を維持されていたこと」が求められるのです。
厚生労働省「遺族年金ガイド令和6年度版」のQAをみてみましょう。
Q. 遺族基礎年金・遺族厚生年金を受け取るための条件の一つに、「死亡当時、死亡した方によって生計を維持されていた方」とありますが、具体的にどのような場合をいうのですか?
A.「死亡した方によって生計を維持されていた方」には、死亡当時、死亡した方と生計を同一にしていた方(同居していること、または別居していても仕送りを受けていたり、健康保険の被扶養者である等の場合に認められます。)で、原則として、年収850万円未満の方が該当します。
生計維持要件は大きく2つに分けられます。「生計同一要件」と「収入要件」です。これらを満たして初めて「死亡した方によって生計を維持されていた」と認定されるのです。
【生計同一関係要件】
・住民票上同一世帯に属しているとき
・住民票上世帯を異にしているが、住所が住民票上同一であるとき
・住所が住民票上異なっているが、現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき
【収入要件】
・前年の収入が年額850万円未満であること
・前年の所得が年額655万5千円未満であること
・一時的な所得があるときは、一時的な所得を除いた後、前年の収入が年額850万円未満または前年の所得が年額655万5千円未満であること
・これらの要件に該当しないが、定年退職等の事情により、近い将来(おおむね5年以内)に収入が年額850万円未満または所得が年額655万5千円未満となると認められること
ざっくり言えば、遺族年金を受給するには、一般に「住民票上同一世帯で、前年の収入が850万円未満であること」が求められるということです。
今回のケースでは、住民票上、亡くなった夫が「世帯主」、Aさんが「妻」となっていて「生計同一要件」は満たしています。しかし、Aさんの収入が850万円以上なので「収入要件」を満たせず、「生計維持」とは認められません。よって、遺族年金を受給することはできないのです。
Aさんは、一緒に暮らしている家族であれば遺族年金をもらえるものだと思っていました。家族のライフプランは夫とのダブルインカムであることが前提です。これからは1人の収入で生活費を賄い、2人の子どもの教育費を捻出していかなければなりません。夫の遺影を前に、不安に押しつぶされそうになるAさんでした……。
角村 俊一
角村FP社労士事務所代表・CFP