公的な年金制度の1つで、条件を満たせば65歳未満の現役世代でも受給できるにもかかわらず、認知されていないために受給者の割合が低い年金があります。『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)より、著者の医師である勝俣範之氏が、65歳未満でも受給可能な“ある年金”について詳しく解説します。
“障害等級1級”で“子どもが2人”なら月12万円…申請しないともらえない、65歳未満でも受給可能な「年金」とは?
請求しないともらえない…「障害年金」のポイント
O:たしかに、がんでももらえる公的な年金があるとは、知らない人も多いと思います。
勝俣:それは、請求(申請)しないともらえないからですね。私たちは、年金保険料をかなり長きにわたって積み立ててきていますが、老齢基礎年金の受給開始年齢は原則、65歳以降から。しかし障害年金は、がんなどに罹患された方は、その年齢まで待つ必要はないということです。せっかくこうしたいい制度があるのですから、使えるときに使わなければ損だと思いますよ。
O:なるほど! 黙っていてはもらえないわけですね。ところで、年金というと、いわゆる国民年金と厚生年金がありますが、障害年金も2階建てになるのですか?
勝俣:仕組みはそうですね。2種類に分けられています。ポイントは、初診時に国民年金に加入していた方は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた方は「障害厚生年金」ということです。この2つで2階建ての構造になっていて、厚生年金に加入している会社員の方などは2級以上なら、障害基礎年金に上乗せして、障害厚生年金も受給できます。配偶者や子どもの分の加算もありますよ。
O:家族分の加算は大きいですね。ちょうど教育費がかかる期間であったり、がんで仕事が制限されたり、支障が出たりしている方にとっては、かなり助かります。障害年金を受給するには、どういった手続きが必要なのでしょうか?
勝俣:原則として、初診日から1年6か月以上経過した日(これを障害認定日といいます)以降に請求手続きを行えます。喉頭全摘手術等の場合は1年6か月待たなくてもすぐに請求できます。請求にあたっては、保険料納付などの要件がありますから[図表2]を参考にしてください。
請求するには、受診状況等証明書などの初診日を確認できる書類、医師の診断書、病歴・就労状況等申立書、そのほかの必要書類などをそろえ、障害厚生年金ならお近くの年金事務所や年金相談センターに提出、障害基礎年金なら加えて、市区町村役場の窓口にも提出できます。
O:審査期間はどのぐらいですか。
勝俣:審査の結果に3~4か月、それから年金証書が届いて2か月以内に振込通知書が届きます。そして初回の振込ですから、請求の準備に取り掛かってから年金が振り込まれるまで少なくとも6~7か月は見ておいたほうがいいでしょう。大まかな流れについては、[図表4]を参照してもらえればと思います。
O:そんなにかかるのですか! ところで障害年金の審査では、面談のようなものはないのですか?
勝俣:ありません。障害年金は書類審査だけです。がんの場合、認定審査では、「就労もできているのだから、障害の程度が軽いのではないか」と見られがちです。だからこそ、仕事の内容や、職場で受けている援助や配慮、職場での様子などをしっかり伝えることが肝心です。
O:必要書類をそろえる準備も含めて、支給の決定や実際の支給までは、けっこう手間も時間もかかりますね。
勝俣:ですから障害年金を請求することに決めたら早めに準備したいです。会社員などで傷病手当金を支給されている方はその期間のうちに準備したほうがいいかもしれません。でも、仮に請求するのが遅れたとしても、すべてとは限りませんが、最大5年分をさかのぼって受給できる可能性がありますから、簡単に諦めないでくださいね。
O:支給が決定されたとして、[図表5]にしたがえば、たとえば障害基礎年金で、障害等級が1級、子どもが2人いる場合、毎月約12万円を受給できることになりますね。障害厚生年金の方は、そこにさらに上乗せがあるから、会社勤めの方にとっては、ずいぶん手厚い制度ですね。
勝俣:そうです。だから障害年金は、ぜひとも利用してほしいのです。障害年金をもらいながら働くことで、治療費や生活費に対する不安を少しでも和らげることができます。また、体調が思わしくないときに、無理して働き続けなくて済みます。
さらに、たとえば正社員からパートタイムに変更するなど、働き方そのものを見直すこともできます。もしかしたら、がんになったことで人生観そのものが変わるきっかけになるかもしれませんね。
O:まさに、がんと共存しながら生きていくことを可能にさせる制度ですね。ところで、今、お話をうかがっていても、請求や手続きは一般の人にはかなり複雑でわかりにくい面があると思いました。障害年金を請求したいけれどよくわからないというときは、どこに相談すればいいですか?
勝俣:請求に必要な診断書も、一般の診断書とは異なっているため、書いたことのない医師にとってはかなりハードルが高いものです。とはいえ、まずは医師にたずねるのがいいと思います。また、がん相談支援センターやソーシャルワーカー、市区町村役場の国民年金の窓口、近くの年金事務所や年金相談センターなどでも相談に応じてくれます。しかし、いちばんのお勧めは、社会保険労務士さんに相談することです。
O:人事とか、労働条件とかの問題に関して、企業や従業員から相談を受ける、社会保険労務士さんですか?
勝俣:はい。社会保険労務士さんの中には、障害年金にとても詳しい方がいらっしゃいます。私も請求についていろいろ教えてもらっています。中には、がんの患者さんの障害年金の相談を中心にやっている方もいます。請求の代行や医師との連絡などもやってくれます。
初めての人が年金事務所に行くと、厳しい対応を受けることもあるようです。障害年金は請求したからといって、必ずしも認められるとは限りません。手続きのやり直しや再審査請求もできるのですが、それがかなりやっかいだとも聞いています。最初から障害年金に詳しい社会保険労務士さんに依頼して請求したほうが無難かもしれません。
勝俣 範之
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科
教授/部長/外来化学療法室室長