おとなしい人はリーダーシップをとるのが得意じゃないイメージがありますよね。脳科学者の西剛志氏は著書『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』の中で、「リーダーシップは従業員によって決まる」と言っています。一体どういうことでしょうか? それはなぜなのか、本書から紹介します。
リーダーシップは従業員で決まる
そうはいっても、内向型がもっとも苦手に感じやすいのが、リーダーとしての仕事をまかされたときです。人を動かすよりも、自分一人で仕事をしたほうが速くて楽だと思ってしまう傾向があるからです。実際に内向型は、世の中的にもリーダーシップを発揮できないというふうに思われています。
米国の2015年の研究では、企業のマネージャー層の内向型の割合は、なんとわずか4%という結果が出ました。すなわち、管理職の96%は外向型ということになります。ぐいぐい周りを引っ張っていく外向型リーダーのほうが、かつてはよく目立っていたのでしょう。外向型は、よく話し、明るく、会議でも注目を集めやすく、優れたコミュニケーターやリーダーになりやすいことがわかっています。
研究者たちのなかにも、「よいリーダーとは外向型である」という先入観のようなものがあり、内向型リーダーの成果は見過ごされてきた歴史があります。これらの過去の事実だけを見ればたしかに、外向型のほうがリーダーに向いているように思えるかもしれません。
ところが、近年、意外な事実が判明しました。「外向型と内向型、どちらがリーダーに向いているかは『従業員のタイプ』で決まる」というのです。具体的には、次のような結果でした。
・受け身な従業員が多い → 外向的なリーダーが優位
・積極的な従業員が多い → 内向的なリーダーが優位
上司の命令に従う、いわゆる軍隊的・トップダウン式組織の場合は、外向型リーダーのほうがうまくいきます。他方、積極性に溢れ、自発的に動くのが得意な従業員が多い場合は、実は、あれこれ指図するよりも、内向型のリーダーのほうが望ましい。そんな明確な違いが明らかになったのです。
内向型は、うしろから人をサポートするのが得意です。自分が前に出て、みんなをぐいぐい引っ張っていくよりも、仕事を各々に任せ、その人の能力を引き出すほうが適しています。今、世界的なリーダーシップの研究でも注目されている「サーヴァント・リーダーシップ(従属する奉仕型のリーダーシップ)」と共通するものです。
サーヴァント・リーダーシップとは、上から下に命令するトップダウン形式のリーダーシップとは異なり、従業員に必要なものをリーダーが提供して、メンバーの意欲を引き出していくボトムアップ型のリーダーシップです。最近は若い人が会社をすぐにやめることがよくニュースでも取り上げられます。
価値観が多様化した現代では、無理に価値観を押し付ける従来のトップダウン式のリーダーシップは、若い人の価値観の自由が奪われるため、やる気が下がってしまうからです。自分が前に立ってどんどん行動するのが得意な外向型は、トップダウン形式のリーダーシップが得意です。
しかし、意欲があって自分で考えることが好きな積極的な従業員は、その環境に違和感を感じ、チームや組織全体の士気も下がってしまいます。一方で、前に出るのが好きではない内向型は、周りが活躍できるように後ろから支援するほうが得意です。人の心に響く言葉を言える内向型は、チームメンバーのやる気をさりげなく鼓舞する役割が向いています。
一つのことを深く極めようとする内向型はビジネスからスポーツ、芸術でも第一線のプレーヤーや職人として活躍できますが、チームの場合はどちらかというと後方から支援する監督やプロデューサーのような立ち位置のほうが本来の力を発揮しやすいと言えます。アジアのことわざに、「小心な人が豪快な人を砕く」という言葉がありますが、まさに、積極的なチームを導くのはおとなしい人の強みなのかもしれません。
もちろん、内向型が無理にリーダーになる必要はありませんが、内向型がリーダーになってもうまくいく可能性は多分にあるということです。これに外向性が備わった、両向型の人になれば、受け身のメンバーにも積極的なメンバーにもより大きな影響を与えられるため、素晴らしいリーダーシップを発揮できるでしょう。