手を動かす、瞬きをするなど人間が起こすアクションは、脳から発する信号によって行われています。この信号=「脳波」とAIを組み合わせれば、まるでテレパシーのように遠隔でさまざまなことを行えるのではないかと考える企業や研究者によって、いま驚きの技術が開発されています。脳波を活用するブレインテックの発展は、人類の未来になにをもたらすのでしょうか。
テレパシーが現実に!?念じるだけで操作ができる技術「ブレインテック」が人類にもたらす未来

健常者と障がい者が共に競い合える未来を作るブレインテック

BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)の研究に取り組む慶應義塾大学理工学部・牛場潤一教授率いる研究チームは、2022年に公開実証実験イベント「BMIブレインピック」を開催しました。

 

同研究チームが開発したヘッドホン型脳波計「PLUG(プラグ)」を装着し、オンラインゲーム「Fortnite」のキャラクター操作に挑戦する当イベント。装着した脳波計で体の動きを想像した際のシグナルをキャッチし、AIが「足を動かす」「手を動かす」などの動きをキャラクターへコマンド送信します。方向転換はプレイヤー自身が体を傾けることででき、脳からのシグナルと合わせてキャラクターをコントロールできます。

 

イベントでは当日参加の中高生に加えて、事前に操作のトレーニングを積んだ障がい当事者の選手が参加し、タイムトライアルを行いました。決勝戦では筋ジストロフィーを患う選手が惜しくも高校生に負けてしまいましたが、健常者や障がい者にかかわらず競い合う姿が見られました。今後、ゲームだけでなくパソコンやスマート家電を念じるだけで操作できるようになれば、障がいがあってもより自立した生活が送れるようになるかもしれません。

 

BMIブレインピックの様子
提供:YouTube BMIブレインピック2022 by Internet of Brainsより

 

また、2023年にはApple社が同社のイヤホンAirPods型の機器に、脳波計測機能をもたせる内容の特許を取得。具体的にどのように製品化されるかはまだ不明ですが、Apple社が脳波を活用したアプリケーションをリリースする可能性があるとして、注目を集めています。

 

医療やヘルスケア、エンタテイメントの進化を加速させることが期待されているブレインテック。しかし、実用化に向けてはまだまだ課題があるのも事実です。まずは脳が厚い頭蓋骨に覆われていることによる、データ精度の問題。そして個人の脳波を活用するということは、「人の頭のなかを直接覗く」ことにも繋がります。そのため、プライバシーの侵害や個人情報の漏洩にも十分に配慮する必要があるでしょう。

 

精度の面では、現在AIを組み合わせることで改善を図る研究が進んでいます。加速するブレインテックの研究は、既存の価値観とはまったく異なる新しい未来を私たちにもたらすかもしれません。

 

 

吉田康介(フリーライター)