科学の進歩にとって、VR(仮想現実)技術は重要な役割を果たすことが期待されています。VRは、医療、教育、製造業、観光、娯楽など、様々な分野で新しい体験を提供する技術です。これは、人工知能(AI)、デジタル通貨の技術であるブロックチェーン、量子コンピューターといった他の先端技術と並んで、私たちの未来に大きな影響を与えると考えられています。また、VRは脳の研究にも以前から使われています。これはBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)という分野にも影響し、最近の研究では、マウスやラットのような小さな動物もVRを使っての実験に反応することがわかってきました。例えば、アメリカのコーネル大学にあるSchaffer-Nishimura研究室では、マウス用の特別なVRヘッドセットを作成しました。このヘッドセットを使って、マウスがどのように振る舞うかを観察することで、人間の意思決定や社交の際の脳の働きについての手がかりを得ることが期待されています。このように、VRは単にゲームやエンターテイメントのためだけでなく、科学研究においても非常に有用なツールとして認識されています。そこで今回は、VRと動物の最前線をご紹介いたします。
人の意思決定などの脳のメカニズムが明らかに? VRと動物の最前線

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

マウス用のVR?

 

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、マウスやラットなどの小動物でもVRを認識できることが明らかになってきています。

VRが動物を対象とした科学研究に使われ始めたのは2000年代初めのことです。これまで、動物の脳の活動や状態を調べるためには、脳に電極を取り付ける必要がありましたが、そのため、動物の脳のメカニズムを解明することは困難でした。VR技術を動物に応用して「実際に動いている」と錯覚させることができれば、脳のメカニズム解明に役立つのではないかと考えられるようになりました。

2023年12月に米ノースウェスタン大学が発表した内容によると、同大学の研究者たちは、実験用のマウス向けに新しいバーチャルリアリティ(VR)ゴーグルを開発しました。

この小型ゴーグルは、単に見た目が小さくて可愛いだけでなく、マウスはより没入感のある体験ができるように設計されています。マウスを取り巻く自然環境をより忠実に再現することで、研究者たちはマウスの行動の背後にある神経回路をより正確かつ精密に研究できます。

これまでのシステムでは、研究対象のマウスをコンピューターやプロジェクションスクリーンで囲み、マウスに映像を見せるだけでした。これは単にテレビをみている感覚に近く、マウスがスクリーンの後ろから実験室の環境を見てしまい、平面的なスクリーンでは三次元(3D)の深さを伝えることができないことが課題でした。


また、マウスが空の天敵に対してどのように反応するのか、ということを観測する実験を行う際は、マウスが空から襲われる状況を再現するために、スクリーンをマウスの頭上に設置する必要がありましたが、この方法ではリアルな状況の再現が難しいという欠点がありました。なぜなら、マウスは上空からの捕食者を検出・反応する必要があるため、マウスの視野の上部は非常に敏感だからです。これは、生物としてマウスに刷り込まれた行動であり、脳に組み込まれているものです。


しかし、マウス用の新しいVRゴーグルはこれらの問題を解決します。


研究者たちはマウス用のVRを活用することで、マウスが実際に空から襲われる状況をリアルに再現し、マウスが自然環境で見せる脳の反応と同様の反応を観測することができます。

今後、VR技術の発展と応用の拡大によって、動物の脳がどのように機能しているのかがどんどん明るみになっていくことでしょう。これは同時に、我々人類の脳についてもこれまでわかっていかなかった新しい発見に繋がるのです。