老後は病院の情報をどのように収集するといいのでしょうか? 精神科医の保坂隆氏は、による著書『精神科医が教える ずぼら老後の知恵袋』の中で「プチずぼら」を推奨しています。一体それはどんなことをすればいいのでしょうか? 具体的な方法を本書から紹介します。
介護サービスは遠慮せずに
日本人はもともと他人に気を使い、「自分より他人を優先する」ような遠慮深いパーソナリティを持っています。「我慢は美徳」「人様に迷惑をかけてはいけない」といわれて育ったシニア層は、その色合いがより濃いかもしれませんね。
こうした特徴は良い面もあれば悪い面もあります。私の知っている老夫婦のケースをお話ししましょう。そのご夫婦は、共に80歳を超え、二人だけで寄り添うように暮らしていました。息子さんと娘さんがいるのですが、息子さんは独立して遠方に住んでいて、娘さんは夫の転勤に伴って海外生活。だから、子どもたちにはほとんど頼らず、自分たちだけで生活のさまざまなことを乗り越えてきたのです。
ところが数年前、ご主人が脳溢血で倒れ、その後、在宅介護が始まりました。民生委員さんの手助けなどもあり、さまざまな介護サービスを受けられ、周りの人たちからは、「ヘルパーさんが来てくれるのなら助かるわね」「お医者さんや看護師さんが家で診察してくれるのだから、手間が省けてよかったわ」などと言われました。
しかし、いざ介護サービスが始まると、奥様がどんどんやつれていき、ついには倒れてしまったのです。本来なら、いろいろ楽になるはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。実は、この奥様は人一倍、「他人に迷惑をかけてはいけない」という気持ちが強い真面目な性格だったため、家まで来てくれる医療スタッフに失礼がないように、少しでも負担をかけないようにとがんばりすぎたのです。
たとえば、訪問サービスのある前日は、家の隅々までピカピカに磨き上げ、さらに夫の体もあらかじめきれいに拭き清めました。そのおかげで、ご主人は部屋をあちこち移動させられたり、ごしごしと体を拭かれたりと、ある意味、いい迷惑。しかし、奥様にとっては、完ぺきな妻として振る舞うため必死だったのです。
介護サービスのスタッフも、「こんなにきれいにされていると、どこを掃除していいのか……」「爪も体も清潔にされていて、私たちが手出しするところがないほどです」とこぼすほど。老老介護の夫婦の負担が減るようにと計画された訪問介護や介護サービスですが、これではかえって夫婦の負担が大きくなってしまい、本末転倒です。
何でも人に頼るのは良くありませんが、これはちょっと行きすぎのケース。人は誰でも、一人で生きてはいけません。誰かの力を借りたり、誰かに力を貸したりして生きているのです。介護サービスもそのひとつ。介護を受ける人がいて、介護をする人の仕事が成立しているわけです。
体と心に染みついた「人に迷惑をかけない」という精神も、歳をとったら「今までたくさん人を支えてきたんだから、これからは支えてもらおう」と、シフトチェンジしていきましょう。
保坂隆
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長