ここ数年、利用者数が急増している「マッチングアプリ」。今や、アプリで出会ったというカップルや夫婦は珍しくありません。しかし、アプリが社会にもたらしたのは、「出会い」だけではないようで……。本記事では、ハーバード大学とグーグルで行動科学を研究したローガン・ウリー氏の著書『史上最も恋愛が難しい時代に 理想のパートナーと出会う方法』(河出書房新社)より一部を抜粋・再編集し、マッチングアプリが生んだ認知バイアスについて解説します。
自分より「2.5cm」身長が高い男性に勝つには「年間600万円」多く稼がなければならない…「マッチングアプリ」が生んだ“落とし穴”【ハーバード・Googleの行動科学研究者が解説】
マッチングアプリが生んだ「比較の罠」
事実、アリエリーは、身長と収入、マッチングアプリ上での成功のあいだに数量化できる相関があることを見つけました。その数値はけっして小さいものではありません。
人気のマッチングサイトのデータを用いてアリエリーが導き出した結論は、男性が1インチ[訳注:2.5センチメートル]背の高い男性と同じ魅力を身につけるには、背の高い男性よりも年に四万ドル(日本円で約639万3,420 円、2024年6/26時点)多く稼がなければならない、というものでした。そう、四万ドルです。
その理由を評価可能性が説明してくれます。現実の生活で、175センチメートルと177センチメートルの男性に出会っても、かれらの身長差に気づくことはほとんどないでしょう(また収入についても、向こうがいやらしくも教えてこないかぎり、知ることはないでしょう)。
けれども前述の通り、比較できる特徴は重要に思えるのです。アプリにより、身長の比較が簡単になります。女性は昔から背の高い男性に惹かれてきましたが、デジタル世界ではその好みがさらに強くなります。マッチングアプリのプロフィールには身長が明記されているため、背の低い男性は現実世界よりもはるかに不利な立場に立たされるのです。ジョナサンがパートナー候補の身長にこだわるのも無理ありません。
では、女性の収入は魅力にどれだけ影響するのでしょうか? 実は、関係がないことがわかっています。マッチングアプリ上で独身男性は、独身女性ほどは、高所得者に魅力を感じません。
その代わりに、男性が女性の魅力を評価するうえでもっとも気にする特徴は、ボディー・マス指数(BMI)でした。BMI18.5(低体重ぎみ)の女性がもっとも好まれ、収入や学歴は問われませんでした。
とはいえ、実際に男性が人生のパートナー候補に対して、スリムさを他の何よりも優先するということではありません。かれらも、数少ない「比較できる特徴」のわなにはまっているだけなのです(まったく!)。
これで私がなぜティンダーでスコットを左スワイプしたのか説明がつきます。私はマッチングアプリで強調される表面的な特徴をもとにパートナー候補を選んでおり、そこでつくりあげていた理想のパートナー像にスコットが当てはまらなかったのです。
当時、どのようなタイプが理想かと訊かれたなら、私は「173センチメートルの赤毛でビーガンのエンジニア」と答えたでしょうか? まさか。「身長175センチメートル以上」と安易に希望条件を設定し、ティンダーでスコットを見ることさえなかったかもしれません。
けれど、十分すぎるほど多くの人と付き合って、スコットが私をもっとも幸せにしてくれる人だと気づきました(彼が写真から想像したような体育会系ではまったくないこともわかりました)。
ここから言えることは、アプリは、測定可能で、比較可能な特徴を強調するため、私たちを惑わせる可能性があるということです。私たちは、人間関係学でもっとも重要だとされている資質は無視し、表面的な特徴が重要だと思い込まされているのです。
ローガン・ウリー
恋愛コーチ兼マッチングアプリ研究ディレクター