私たちが求めるデート相手は間違っている

メールを書いていると、ジョナサンがドアをノックしました。初回セッションの開始予定から一五分過ぎており、もう来ないだろうと私は思っていました。「申しわけない」とジョナサンは大きな手を私のほうに差し出しながら言いました。「なかなか仕事を抜けられなくて」

ジョナサンは背が高く、引き締まった体をもつ魅力的な男性でした。ほほ笑むときや、彼の肩書きである「CEO」の「C」の音を発音するときにえくぼが浮かびました。中西部の出身でサンフランシスコに来て五年ほどたちます。そのほとんどを独り身で過ごし、期待できそうな関係もいくつかはありましたが、結局どれもダメになりました。マッチングアプリと数年間格闘したのち、私のもとへ相談に訪れたのです。

最初の数回のセッションで、ジョナサンが自分にどれだけ高いハードルを課し、恋愛以外の部分でどれだけ成功を収めているかわかりました。大学では学生総代を務め、国際的な賞をいくつも受賞し、ローズ奨学金[訳注:オクスフォード大学の大学院生に与えられる、世界最古の奨学金]までもらっていました。志が高いけれど思いやりがあり、おもしろい。

ジョナサンは説明しました。「アプリを使って何百回もデートをしてきた。自分の求めるものはわかっているのに、その理想の男性に出会えない。希望のタイプは、身長190センチメートル以上で、引き締まった体の企業経営者。相談に乗ってくれるかな?」

「ええ、お手伝いしますよ」と私は答えました。「あなたが思っているようなやり方ではないけれど」

ジョナサンに背の高い適切なビジネスマンを紹介する必要はありませんでした。彼に必要なのは、恋愛のためのマインドセットを完全にリセットすることです。そのためには、まずはマッチングアプリが与える影響を理解しなければなりません。

問題:人間の脳は、測定可能で、簡単に比較できるものを重視する。アプリは表面的な特徴を提示するので、私たちはその特徴を必要以上に重視してしまう。

何十年にもわたる人間関係の研究により、長期的な関係の成功に大切な要素が明らかになっています。つまり、情緒の安定、優しさ、誠実さ、そして相手が自分をどのような気持ちにさせるか、です。

しかしマッチングアプリでは、それらの資質の一つも検索することができません。なぜでしょうか? 性格の特徴を正確に測ることはできないし、ましてや、それらの資質があなたに与える影響などわかりようがないからです。

その代わりにマッチングアプリに掲載される情報は、確実に測定できて列挙できるものばかりです。身長や年齢、出身大学、仕事、さらには、かっこいいけれど親しみやすく、セクシーでありながら子どもっぽさもうかがえる「モテ写真」を選ぶのがどれだけ上手か。これが問題なのです。経営コンサルタントがよく言うように、「あなたは測定基準そのもの」です。

これについてハーバード・ビジネス・レビュー誌のコラムで、行動経済学者のダン・アリエリーが次のように書いています。

「人間は自ら設定した測定基準にもとづいて自らの行動を調整する。何を測定しても、人はその測定基準において自分のスコアを最大化するよう駆り立てられる。つまり、人は測定するものを手に入れるのだ。以上」

たとえば、飛行機の搭乗マイル数に応じて特典を受けられる、というマイレージ会員制度を作り、マイル数が鍵となることを顧客に伝えると、顧客の行動が変わるとアリエリーは説明します。顧客はマイルを最大化するために、遠く離れた空港からの非合理なフライトを予約し始めるのです。

言い換えると、人は暗示にかかりやすいのです。測定基準を見せられると、それが大切だと思い込んでしまう。私たちは表面的な特徴を重視しがちですが、アプリがそれらの特徴を測定し、提示し、強調することで、もっと重要だと思わせるのです。

これに似た概念として、シカゴ大学の教授、クリス・シーが評価可能性(Evaluability)について書いています。シーは、ある特徴が比較しやすければしやすいほど、その特徴が重要に思えると言います。

たとえば、このようなシナリオを想像してみてください(思考実験ですので、あなたは男性に興味があると仮定してください)。私が道であなたに声をかけ、「二人の独身男性のどちらかと付き合えますよ。一人は身長175センチメートルで、もう一人は177センチメートル。ただし、身長の低いほうがお金持ち。どちらと付き合いたい?」と尋ねたとします。

大半の人が「どうして見ず知らずの他人がそんな変な質問をするのか?」と困惑して、ゆっくりその場から立ち去るでしょう。けれど、とどまる決断をした人には、私がさらなる質問を投げかけます。「背の低い男性が、背の高い男性と同じくらいモテるには、どれくらい年収が多ければいいと思う?」

その時点では、あなたは苦笑いしながら「具体的な数字を出すなんて無理だ」と答えるかもしれません。しかしダン・アリエリーの研究のおかげで、無理ではないことがわかっています。