妻を亡くして突如始まった、78歳Aさんの “新生活”

現在78歳のAさんは高校を卒業後、大手企業に入社。自分にも他人にも厳しい性格のAさんは、たたき上げで部長職にまで上り詰め、定年まで勤めあげました。

定年退職後は、つながりのあった会社の顧問をしたり、地域の世話役をしたりと、現役時代と変わらず忙しい毎日を送っていたAさんでしたが、昨年、奥さんに先立たれてからは、生活が一変します。

顔には出しませんが、妻を失った寂しさが拭えぬなか、Aさんのひとり暮らしがスタート。これまで家事を一切してこなかったAさんにとって、この年になってからの自炊や掃除、洗濯は心身ともに負担が大きく、大変なストレスでした。

「こんなに大変なことを、妻に任せきりにしていたんだな……いやあ、いまさら反省してももう遅いか」

そんなある日のことです。ワイドショーの「老人ホーム特集」が目に留まったAさんは、施設での暮らしを検討するようになります。

「施設に入れば家事はスタッフに任せて、足腰も痛めずに済むのか……これはいいかもな」

Aさんの資産状況は、退職金の残りなどをあわせて1,500万円ほど。収入は月額約20万円の年金のみです。

「これから贅沢することもないだろうし、この家を売ればなんとかなりそうだな。息子に迷惑をかけるわけにはいかないし、俺の資産でまかなえるところにしよう」

自分なりに資金をシミュレーションして手ごろな施設を見つけたAさんは、早速施設に電話し、見学予約を取り付けました。

優しそうなスタッフと快適な施設に「即決」

数日後、施設見学に訪れると、物腰の柔らかい女性スタッフがAさんをお出迎えし、館内を丁寧に案内してくれました。その後食堂で、施設で実際に提供されている昼食を試食。栄養バランスもよく、味も文句ありません。

(自分で苦労しなくとも、毎日こんなに美味しい料理が食べられるのか……スタッフもみんな優しそうだし、俺が求めているレベルをクリアしている)すっかりその施設が気に入ったAさんは、その場で入居契約を結ぶことに。

現在49歳のひとり息子にも、念のため連絡を入れます。

「父さんな、老人ホームに入ることにしたから」

父親から厳しくしつけられている息子は、父親の決定に異議を申し立てることはありません。内心不安もありましたが、それを直接伝えることはしなかったそうです。