心身の衰えや介護の必要性、家族を失った寂しさなど、老人ホームに入居する理由はさまざまです。しかし、安易に施設を選んでしまうと、老人ホームでの「予期せぬトラブル」に見舞われるかもしれません。過去に介護施設での勤務経験があり、現在は株式会社FAMORE代表取締役である武田拓也FPが、具体的な事例をもとに「入居トラブルの予防策」を紹介します。


年金月20万円・貯金1,500万円の78歳父〈老人ホーム〉で“新しい友だちとの老後”を楽しんでいたが…49歳息子、たまたま目にした〈まさかの光景〉に悲鳴「やめてくれよ!」【元介護施設勤務のFPが解説】
妻を亡くして突如始まった、78歳Aさんの “新生活”
現在78歳のAさんは高校を卒業後、大手企業に入社。自分にも他人にも厳しい性格のAさんは、たたき上げで部長職にまで上り詰め、定年まで勤めあげました。
定年退職後は、つながりのあった会社の顧問をしたり、地域の世話役をしたりと、現役時代と変わらず忙しい毎日を送っていたAさんでしたが、昨年、奥さんに先立たれてからは、生活が一変します。
顔には出しませんが、妻を失った寂しさが拭えぬなか、Aさんのひとり暮らしがスタート。これまで家事を一切してこなかったAさんにとって、この年になってからの自炊や掃除、洗濯は心身ともに負担が大きく、大変なストレスでした。
「こんなに大変なことを、妻に任せきりにしていたんだな……いやあ、いまさら反省してももう遅いか」
そんなある日のことです。ワイドショーの「老人ホーム特集」が目に留まったAさんは、施設での暮らしを検討するようになります。
「施設に入れば家事はスタッフに任せて、足腰も痛めずに済むのか……これはいいかもな」
Aさんの資産状況は、退職金の残りなどをあわせて1,500万円ほど。収入は月額約20万円の年金のみです。
「これから贅沢することもないだろうし、この家を売ればなんとかなりそうだな。息子に迷惑をかけるわけにはいかないし、俺の資産でまかなえるところにしよう」
自分なりに資金をシミュレーションして手ごろな施設を見つけたAさんは、早速施設に電話し、見学予約を取り付けました。
優しそうなスタッフと快適な施設に「即決」
数日後、施設見学に訪れると、物腰の柔らかい女性スタッフがAさんをお出迎えし、館内を丁寧に案内してくれました。その後食堂で、施設で実際に提供されている昼食を試食。栄養バランスもよく、味も文句ありません。
(自分で苦労しなくとも、毎日こんなに美味しい料理が食べられるのか……スタッフもみんな優しそうだし、俺が求めているレベルをクリアしている)すっかりその施設が気に入ったAさんは、その場で入居契約を結ぶことに。
現在49歳のひとり息子にも、念のため連絡を入れます。
「父さんな、老人ホームに入ることにしたから」
父親から厳しくしつけられている息子は、父親の決定に異議を申し立てることはありません。内心不安もありましたが、それを直接伝えることはしなかったそうです。