会話は脳を刺激する

人間の進化したコミュニケーション方法はなんと言っても会話です。SNSの時代となっても、結局はスマホ経由で会話をしているので、人との会話は重要な意味を持っているはずです。脳を刺激するという視点で見ても、会話はタイミングが非常に重要です。


相手の話が途切れるタイミングを狙って、自分の言葉を繰り出していくのですから、会話中は、人の話を聞きながら次に何を言うのかずっと考えて聞いていることになります。会話はもっとも手っ取り早い脳の刺激方法です。私の愛犬を見ていても、言葉をある程度理解していることが十分わかります。


当然、犬は言葉を発することはありません。鳴き方を変えて表現はしますが、言葉とは言えないでしょう。自分の愛犬を眺めていると話ができればなあと、時々本気で思うことがあります。物事を考えるとき、脳の中で言葉を作るから、それによって考えることができると言われています。


言語を使うとき、従来は前頭葉のブローカ野と呼ばれる場所が中心と考えられていましたが、最近では、もっと広く脳を使いながら会話をしていることがわかってきました。人と話をするとき、何かをイメージしながら言葉をさがして、しゃべっています。実はこれはインターネット上で、何かを検索するときに似ているのです。今のインターネットの仕組みでは、イメージだけで何かを探していくことは難しいものです。


例えば、どこかの家具屋さんで見た椅子を探すときは、形や色、デザイナーの名前などをキーワードにして、自分が欲しい椅子の写真を探していくことになります。イメージだけで検索はまだまだ難しいので、その間には言葉が入らないとできません。AIを使ったとしても、思考をまだ理解できないでしょうから、言葉を仲介に使わないとうまくいかないでしょう。


インターネットの検索が脳を非常に刺激するというのは、イメージを膨らませながらそれを言葉に置き換えて検索するからでしょう。つまり会話をすることも、同じようにイメージを広げながら言葉探しをして会話しますから、脳を刺激することになるのです。相手の話を聞き、そこから入ってくる情報と自分の脳にしまい込まれた情報を探し出して、言葉を作り会話を続けていくので、昔の神経学のように単に言語中枢の働きというわけではないのです。


また、言葉と一緒に感情を相手にぶつけるとき、つまり愚痴を言うときに重要になってきます。ストレスを解消させるもっとも手っ取り早い方法は、だれかに愚痴を言うことです。ストレスは脳に悪影響があることは、説明してきましたが、それを早く解消することが脳を守るために非常に重要なのです。


つまり、話し相手がいることがいかに脳の健康を守っていく上で大切かということでしょう。そのときもやはり言葉があってこそ可能なのです。開業医はその点、話し相手が少ない職業です。患者さんとは、病気のことで話はしますが、本音ではなかなか会話できないところもあります。


私の父が元気だった頃は毎朝、医学から政治まで幅広い話をしていました。それが可能だったのは、同じ職業ということがあったからでしょう。つまり話し相手は、お互いの知識や経験のレベルが同じくらいになってこそ、話が盛り上がるわけです。


だから同級生というのは、同じ時代に時間の共有ができているので、話し相手としては、面白いのでしょう。ただどうしても同じ話題になってしまうという欠点はありますが。歳を取ってくると、友人とは次第に疎遠になってしまいます。近くに住む話し相手も減ってきます。


さらに定年になってからは、行動範囲が狭くなり、なかなか新しい友人ができなくなってしまいます。つまり友人が少ないということは、言葉を使うチャンスが減っていくことになり、脳の衰えを加速させてしまう危険があるのです。いくらインターネットが使えるといっても、実際に人に会って話をする刺激とは同じにはなりません。


普段の会話のとき何もしっかり考えて話をしろというのではありません。いつもとは違う人に会い、相手の話を聞くことで発想が広がり、言葉もたくさん出てくるのです。高齢になればなるほど、話し相手をいかに確保するかが重要になってきます。