関西随一の高級住宅街といわれる、兵庫県の芦屋エリアでは、近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトが作り上げた建築をはじめ、欧風の近代的な邸宅が立ち並んでいます。建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、芦屋で堪能できる珠玉の名建築を見ていきましょう。
坂倉準三の名作から“謎の建築”まで…魅力深き「芦屋」の名建築
06.コルビジェの弟子・坂倉準三のセンスが光る「ルナ・ホール」
芦屋川をはさんで向かいのルナ・ホールは、コンクリート打ち放しの壁が美しい。今は表面を塗装しているが、ほとんど打ち放しの雰囲気のままだ。なかなかこうは改修できない。ホールという用途上、コンクリートの大きな箱になるわけだが、打ち放しのテクスチャーと表面に取り付けられたコンクリートのリブが圧迫感を消してくれている。坂倉準三はフランスでコルビュジェに弟子入りした戦後モダニズムのリーダーのひとりである。
07.都市部街路の復元例「業平橋」
国道2号線が芦屋川に架かるのが業平橋だ。阪神国道事務所は順番に橋を復元していて、だんだん楽しくなってきている。戦時中の金属供出で街路施設は照明や欄干などを失い、戦後ほとんど復元されてこなかった。元来都市部の街路はもっと楽しげなものだったのだ。
08.フクロウが見張り番「芦屋警察署」
さらに芦屋川沿いを南下して、阪神芦屋駅に近い芦屋警察署を見よう。ここは、ともかく玄関のフクロウがかわいい。夜も見張っているといいたいのかも知れないが、かわいすぎる。その上のアーチ窓と縦ラインの組み合わせは、表現主義的なおもしろさがある。さらに、玄関の緑色の大判布目タイルが美しく、復元したものだろうが、玄関扉は真ちゅう板を上手く使ったデザインで、まるでウイーン分離派のように華やかだ。
09.元電話局の幸せなジョブチェンジ「芦屋モノリス」
芦屋警察署から東方向にある芦屋モノリスは、元電話局の建物を結婚式場に転用している。アーチを連ねた回廊風のデザインが素晴らしく、スチールサッシもそのまま残っている。アルミと違ってスチールはやはり細身でかっこいい。外装は焼きむらのあるスクラッチタイルで、所どころ模様貼りにしている。ここも阪神大震災でびくともしなかったそうだ。上浪朗は逓信省営繕の建築家である。
10.詳細不明の謎の建築「芦屋市立図書館打出分室」
阪神打出駅前交差点を左折してすぐの芦屋市立図書館打出分室は、兵庫県教育委員会の資料では石造りとなっているが、わたしにはレンガ造りに石を貼っているように見える。元は松山与兵衛邸で、戦後図書館に改造したということだ。旧逸見銀行の建物ともいわれているがよくわからない。
円満字 洋介
建築家