サービス実現に向けたトライアルが進む「音響XR」
オープンイヤー型イヤホンの大きな特徴として、周囲のリアルな音とイヤホンから聴こえるバーチャルの音を同時に聞くことができる点が挙げられます。このような音におけるリアルとバーチャルの融合は「音響XR」と呼ばれており、サービス実現に向けたトライアルが進められています。
2023年に開催された「第180回NTT東日本N響コンサート」のサテライト配信公演では、この技術を用いてコンサート会場に解説音声を流す取り組みが実施されました。通常であればコンサートの音と混ざって聞き取れない解説音声ですが、正面からはコンサート音声が流れ、解説音声はオープンイヤー型イヤホンによって頭の上から聞こえるため、解説音声が聞き取りやすくなるという試みです。
音声・映像・照明情報をすべて統合!? 空間臨場感をそのままに再現する異次元な音響テック
2020年にコロナ禍によりライブエンターテインメント市場は大きな打撃を受けましたが、人流も徐々に増え、大規模有客イベントの増加や大型音楽フェスの復活など、回復の兆しが見えています。
ヤマハ株式会社の「General Purpose Audio Protocol(GPAP)」は、音声だけでなく映像や照明の制御信号など、ファイル形式の異なるさまざまなデータをオーディオデータ(wavデータ)の形式に統一し、記録・再生することができる技術です。
通常、音声や映像のデータ、照明や舞台装置などの制御信号は、それぞれ独自のフォーマットで記録され、異なる記録ハードウェアに保存されます。これらをシンクロさせて同時に再生する場合には、独立して記録されている各データを同期させるための煩雑な処理が必要となります。
GPAPではすべてのデータをひとつのタイムライン上で記録しているため、簡単にシンクロ再生することができます。これを利用すれば、高臨場感のあるライブビューイングのリアルタイム配信が可能になるほか、自宅でも音楽や映像とスマート照明を同期させた没入感の高いコンテンツを楽しめます。
SONYの「360 Reality Audio」も高い没入感を追及している音響テックの1つ。ボーカルやコーラス、楽器などの音源1つひとつに位置情報をつけ、球状の空間に配置。従来のステレオやサラウンドと異なり、アーティストのライブ会場で音に包まれているような臨場感溢れる立体的な音場を体感できます。
さらに360 Reality Audio認定ヘッドホンを使用すれば、専用のアプリでヘッドホンの音響特性を個人に最適化することができます。実は人間の音の聞こえ方は耳や頭の形によって個性があり、聴感特性と呼ばれています。アプリで撮影した耳の形を解析し、利用者の聴感特性に応じてアプリを最適化することで、リアルの世界で音を聴いている時と同じような正確な音場を再現してくれます。