「病気になってもオシャレをしたい」メディカル専用編み機と肌データを活用した医療用ストッキング
病気治療の一環として着用する医療用ストッキングにもテクノロジーが活用されています。女性にとってストッキングは身近なものですが、ファッションの一部として選択するそれとは異なり、主にリンパ浮腫の方が着用するのが着圧の強い医療用ストッキングです。
リンパ浮腫とは、がんの手術や治療の影響などでリンパ液の流れが悪くなりむくんでしまう状態のこと。主に婦人科系がんや乳がんの後遺症として発症するため、その9割以上が女性といわれ、一度発症すると完治が難しいと言われています。脚のリンパ浮腫の治療には医療用弾性ストッキングによる圧迫が欠かせません。
毎日はき続ける必要があるため、医療用としての機能性にくわえ、快適性や美しさも不可欠と考え、テクノロジーの力で実現したのが、化粧品メーカーとして知られるポーラ・オルビスグループから生まれた、「MAEÉ(マエエ)コンプレッションストッキング」(encyclo(エンサイクロ))です。リンパ浮腫を抱える人が持つ「医療用弾性ストッキングが原因でオシャレを諦めている」という課題に着目し、開発されました。
一般的なストッキングと医療用弾性ストッキングの大きな違いはその着圧力。「MAEÉコンプレッションストッキング」の場合、足首は最大43hPa、ふくらはぎは34hPa、太ももは22hPaとなり、心臓に遠いところから段階的に圧迫することで血流の流れを促し、脚のむくみを予防・改善します。ちなみに10hpa→500円玉7.5個分を置いたくらいの圧力*4なので、着圧感が想像できるかと思います。
着圧力を実現するためには、特殊な編み機が必要となります。「MAEÉコンプレッションストッキング」が使用しているのは、医療用弾性ストッキング編機のトップメーカーであるドイツのメルツ社の編み機。この特殊な編み機により、見た目は足首から太ももまで同じでも、部位ごとに細かく設定した着圧値を実現しています。
ストッキングですから、伝染しづらさも必須です。使用する糸は、芯糸となるライクラ®*5ファイバーの周りに、ナイロン糸を二重に巻き付けてカバーしたDCY糸(ダブルカバードヤーン)を採用。一般的なストッキングに比べて太くて丈夫な糸で編んでいるため、耐久性に優れているのも大きな特徴です。
ポーラ・オルビスグループらしく、ベージュの色にもこだわっています。そこで活用されたのが、ポーラの1,900万件(開発当時)を超える肌色ビッグデータ。それに基づいて、日本人女性の肌を美しく見せる究極のベージュが生み出されました。
編み機や糸の技術、そして肌研究のビッグデータと、さまざまなテクノロジーが融合して着圧機能は保ちつつ素肌感のある薄さと透明感を備えた医療用ストッキングが実現しました。
*リンパ浮腫治療のための医療用弾性ストッキングは、医療従事者の指示のもとの購入が前提となります。
可能性を多く秘めたフェムテック
女性の生活に密接に関わる「フェムテック」をご紹介しました。テクノロジーによってより良い環境を生むフェムテックはまだ始まったばかりで、多くの可能性を秘めています。さらなる技術革新に期待も高まりますね。
参考:
*1ユニ・チャーム調べ
*2地域がん登録全国推計値2020年データによる。国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
*3国立がん研究センターがん対策情報センター(人口動態統計より作成)2014年データを参照
*4グンゼのHPより引用(https://www.gunze.co.jp/support/faq/product/material-03.html)
*5ライクラ®(LYCRA)はTheLYCRACompanyの商標です。
<プロフィール>
川原好恵
文化服装学院マーチャンダイジング科卒業後、流通業界で販売促進、広報、店舗開発を約10年経験した後、フリーランスとして独立。下着通販カタログの商品企画などを経て、現在はランジェリーやビューティ、フェムテックの分野を中心に、雑誌、新聞、ファッションウェブサイトなどで執筆・編集を行うほか、服飾専門学校などで講師を務める。