キャリアの最後に訪れる「引退」。労働からの解放は一見素晴らしいことのようにも思えますが、引退後の生活に不満を抱く人も少なくありません。そこで本記事では、米ハーバード大学医学大学院・精神医学教授のロバート・ウォールディンガー氏とハーバード成人発達研究の副責任者を務める心理学教授のマーク・シュルツ氏による共著『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)から一部抜粋し、引退後の生活を充実させるコツについて解説します。
“仕事”は恋しくないけれど…キャリアの最後に待つ「引退」後の生活に不満を抱いてしまう人の意外な共通点【ハーバード大の幸福論】
職場で最も大切なものとは
ヘンリー・キーンは典型的な例だ。彼は勤めていた自動車工場の都合で急な退職を余儀なくされた。突然、時間と体力がたっぷりある立場になったため、手伝えそうなボランティア活動を探した。
最初は退役軍人省が運営する高齢者介護施設で、次に米国在郷軍人会と退役軍人会で活動し始めた。家具の塗り替えやクロスカントリースキーなど、趣味にも時間を割けるようになった。
だが、心は満たされなかった。何かが足りなかった。
「仕事がしたいんです!」ヘンリーは65歳のとき、研究チームに語った。
「本格的な仕事でなくていい。働けば、毎日暇を持て余すこともないし、収入にもなります。自分は働くのが好きで、人と一緒にいるのが好きな人間なんだと気づいたんです」
お金が必要だったわけではない。それなりの年金はもらっていたし、収入には満足していた。だが、お金をもらうことで、自分の活動の意味を感じていた。お金を払ってくれる人がいるということが大事だった。人は誰でも、他者にとって価値のある存在になる手段を必要としている。
また、人と一緒にいたいというヘンリーの気づきは、一つの重要な教訓、引退ではなく仕事そのものについての教訓を与えてくれる。つまり、職場で重要なのは人だ、ということだ。
職場を見回し、自分の人生に価値を与えてくれる同僚に感謝することが大切だ。仕事にはお金の問題やストレス、不安がつきまとう。だから、職場で育まれる人間関係の重要性は見過ごされやすい。
職場の人間関係の本当の大切さは、失ってから気づくことも多い。