職場において「幸福な人生」を手に入れるコツ

メンターシップとしては複雑な関係だった。ボブはマークの上司という立場だが、教えを乞うとなるとそれなりに弱さをさらけ出すことになる。一方、マークにとっては、ボブはずっと年上ではるかに安定した大人だから、やりづらいところがある。それでも、ボブとマークは互いに学び合った。

マークはボブに統計学を教え、ボブはマークに豊富な経験を伝えた。最終的に、ボブは助成金を獲得し、研究者へとキャリアを変更した(ただしマークはもう何年もボブから報酬のクッキーをもらっていない)。

年齢を重ね、メンティーからメンターへ、教わる側から教える側へと立場が変わっていくと、新たな人間関係を紡(つむ)ぐ機会が生まれる。そうした機会は思いがけない形で訪れる。

若い世代を指導し、知恵や経験を伝えることは、キャリアの一部であり、職種を問わず仕事のやりがいを高めてくれる。次世代を育てるという満足感は、職場における幸福な人生(グ ッド・ライフ)につながっている。

引退後に気づく、職場でのつながりの大切さ

ライフステージが進んでいくと、昇進や失業、転職、出産をきっかけとして、仕事上の転機が訪れる。人生が大きく変化するときには、一歩引いて、鳥の目で新しい生活をとらえ直してみるといい。この変化によって、職場やそれ以外の人間関係はどんな影響を受けるだろうか? 大切な人とのつながりを保つための選択肢はあるだろうか? 新しいつながりをつくる機会を見逃していないだろうか?

キャリアにおける最大の変化は、キャリアの最後に訪れる。引退だ。一筋縄ではいかない転機、人間関係の問題がたくさん生じる転機でもある。同じ職場に定年まで勤め上げ、退職して年金を満額受け取り、悠々自適の生活を送るという「理想的な」引退生活は、実際にはあまりない(現代では絶滅したも同然だ)。

本研究では、引退について頻繁に調査を行った。仕事あっての人生だから、引退するなんて考えられない、とむきになる男性被験者は非常に多かった。彼らは「引退なんてしませんよ!」と言っていた。引退したくない被験者、経済的な事情で引退できないと感じている被験者、仕事のない生活を想像するのは無理だという被験者もいた。就業状態がはっきりしない被験者もいた。

引退という問題について考えることを拒否し、質問票の引退に関する質問を空欄のままにする人も多かった。引退したと回答しながら、実際にはほぼフルタイムで働いている人もいた。つまり、彼らにとって、引退したかどうかは本人の気持ち次第のようだった。