キャリアの最後に訪れる「引退」。労働からの解放は一見素晴らしいことのようにも思えますが、引退後の生活に不満を抱く人も少なくありません。そこで本記事では、米ハーバード大学医学大学院・精神医学教授のロバート・ウォールディンガー氏とハーバード成人発達研究の副責任者を務める心理学教授のマーク・シュルツ氏による共著『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)から一部抜粋し、引退後の生活を充実させるコツについて解説します。
“仕事”は恋しくないけれど…キャリアの最後に待つ「引退」後の生活に不満を抱いてしまう人の意外な共通点【ハーバード大の幸福論】
世代を超えて与え合うことで得られる幸せ
高校教師のレオ・デマルコは若い頃、小説家を夢見ていた。しかし結局、その夢は教育への情熱へと変わり、物書きを目指す生徒の指導に生きがいを見出した。「自分で夢を追うよりも、夢を追う誰かの後押しをするほうが、僕にとっては大事なんです」と彼は話していた。
レオもそうだったが、教師は生徒のメンターになる。だがどんな職業にも、経験の浅い人とベテランがいる。
メンターシップ(助言・指導する/される)という関係は、メンターとメンティーの双方にとって有益なものだ。メンターの立場にある人は、次世代を育てる。積み重ねてきた経験や知恵を自分の代で終わらせず、次の世代に伝えることは特別な喜びをもたらす。
職業生活を通じて自分に与えられたもの、そして与えてもらいたかったものを次の世代に与えることができる。新人のエネルギーや前向きな気持ちに刺激を受け、若い世代の斬新な考え方に触れることもできる。
一方、メンティーの立場にある人は、何もかも独学、独習しなければならない人より、早く技能を身につけ、キャリアを高めることができる。実際、メンターシップが不可欠な職業もある。
経験を積んだ人の弟子となって細かな指導を受けなければ、技能を身につけることが難しい職種は多い。メンターシップを受け入れ、育んでいくと、メンターとメンティーの双方にとって豊かな体験がもたらされる。
筆者のボブとマークの場合も、キャリアはもちろん、人生についてさまざまなメンターからの指導を受けたおかげで、今がある。実際、お互いがメンターとメンティーの関係になったこともある。
初めて会ったとき、公式にはボブがマークの上司だった。マークがインターンをしていた心理学プログラムの責任者がボブだったのだ。マークはボブより10歳以上若い。だが、研究者としては先輩だった。出会って間もない頃、ボブは研究者の道を本格的に歩み出すため、研究助成金を申請することにした。
ボブは臨床精神科医・教育者としてキャリアを築いてきた。だが、研究に軸足を移すとなると、管理職という立場を捨て、肩書のない立場からやり直すことになる。今さら遅すぎるとか、キャリアの変更は難しいと反対する同僚もいた。それでもボブは前に進んだ。
ところが問題が起こった。助成金の申請には複雑な統計分析が必要だが、ボブにとってはまったく縁のない分野だった。そこで、友情と一生分のチョコチップクッキーを約束し、マークに教えを乞うた。