人との会話とは難しいもので、話している当人は自慢するつもりのない話も、聞きようによっては自慢話と解釈されることも少なくありません。しかし、そういった懸念とは無縁な人もいるようで、作家の阿川佐和子氏は、「稀代のモテ男」といわれる俳優と話した際、その話術の素晴らしさに感心した、といいます。阿川氏の著書『話す力 心をつかむ44のヒント』より、人から好かれる紳士が実践している「話術」について、詳しくみていきましょう。
石田純一さんがモテる秘訣
石田純一さんにお会いしたときのこと。当時、石田さんは天下のモテオトコで名を馳せていらっしゃいました。今がそうではないという意味ではないですよ。でもその人気には当時、すさまじいものがあり、殿方でさえ、石田さんの真似をして冬でも靴下をはかず、素足で靴をはくのが流行ったほどでした。
私は石田さんに質問をしました。
「どうすれば、モテる男になれるのか、世の殿方に指南するとしたらなにかヒントはありますか?」
すると石田さんはしばし考えてから、お答えくださいました。
「うーん。自分の話はしないで、まず女の子の話を聞くことかな」
こりゃまた名言! 私は唸りました。
とかく若い女の子の気を引きたいと望む男性諸氏は、なるべく早く自分のことを知ってもらいたいと思って、仕事の話や、自分が今までどんな実績を積んできたか、今、どんな案件で戦っているか、など、必死で女の子に語りかけるそうです。でも女の子はそんな話にまったく興味がない。なぜなら、それらの話はほとんどが自慢話だからです。
「そうなんっすかあ」
「そうだったんだあ」
「さしすせそ」の中でもかなり「無関心」風の口調で反応するばかり。それでも男性は気づかない。なんとか女の子に自分を理解してもらいたいと焦り、なおさら熱を込めて自らをアピールし続ける。そして、女の子は高級なご飯をご馳走になったあと、心の内は不機嫌なまま、外見としては満面のお愛想笑いを浮かべ、
「ごちそうさまでしたあ」
そして二度と会ってくれないのだそうです。だってつまんないんだもん、オジサンの話、というわけです。
ならばオジサンはどうすればいいのでしょう。
自分の話はさておいて、女の子に質問を投げかけることが大事だと石田さんはおっしゃいます。
「今、どんなことに関心があるの?」
「どんな仕事をしたいの?」
「自分のファッションやメイクは何を参考にしてるの?」
「音楽はなにが好き?」
なんでもいいから、女の子が喋りやすい話題をさぐり、女の子が語る時間を多く作る。ここで注意しなければいけないのは、決して尋問のように畳みかけないこと。あくまで優しく。興味を持って。さりげなく。そうするうちに、
「私、実は洋服のスタイリストになりたいんです。でも、どうすればなれるのかわかんなくて」
そんな言葉が女の子の口から出てきたら、チャンスです。
「そうかそうか。実は僕の学生時代の友だちに、スタイリストになったのが一人いてね。彼女は今、女優の○○のスタイリストやってるんだ」
「マジっすか?」
たちまち女の子の目が輝いて、オジサンの言葉に興味を持ち始める。女の子の質問は止まりません。その人、どうやってスタイリストになったんですか、どこかファッション事務所を訪ねたほうがいいんでしょうか、やっぱフランスとかに留学したらセンス磨けますかね、などと、会話が盛り上がってきたら、そこからはオジサンも、自分について語り始めて大丈夫。そしてまた会う約束をしてくれる。という好循環が生まれるそうです。
なるほどね。モテる男は、聞き上手でもあるということか。自慢話はしないんだ。そう合点したことがありました。
もっとも、いかにも聞き上手で、相手を持ち上げるのが巧みな人は、得てして下心がある場合もありますのでね。若い女性は要注意ですよ。詐欺かもしれないし。若い女の子だけでなく、私のような高齢者もね。騙されていつのまにか通帳を渡しちゃったりすることがありますから。気をつけましょうね。
阿川 佐和子
作家