人との会話とは難しいもので、話している当人は自慢するつもりのない話も、聞きようによっては自慢話と解釈されることも少なくありません。しかし、そういった懸念とは無縁な人もいるようで、作家の阿川佐和子氏は、「稀代のモテ男」といわれる俳優と話した際、その話術の素晴らしさに感心した、といいます。阿川氏の著書『話す力 心をつかむ44のヒント』より、人から好かれる紳士が実践している「話術」について、詳しくみていきましょう。
東海林さだおさんの名言
「人の話は90パーセントが自慢と愚痴である」
そうおっしゃったのは東海林さだおさんです。そのとき私は東海林さんと一緒に食事をしながらお喋りをしていました。楽しい会話をしたいと思い、何の話をしたか定かな記憶はありませんけれど、たとえば、「聞きにくい質問をして、こんなお応えをいただいて、本当に嬉しかった」といった主旨のエピソードを披露したのです。
私の気持としては、ゲストがどれほどステキな人であるかを東海林さんに伝えたいと思ったまでのことなのですが、その話をし終わったとき、東海林さんがボソッと呟つぶやきました。
「それって、自慢?」
イラッとなさったわけではありません……たぶん。ニヤリと笑いながら、私を茶化されたのだと思います。そして、くだんの「人の話は90パーセント(80パーセントだったかもしれない)が自慢と愚痴である」という名言を吐かれたのです。
なるほどねえ。納得して以来、気をつけて人の話を聞いていると、たしかにそういう傾向はありますね。本人は決して自慢するつもりのない話も、聞きようによってはさりげない自慢話のように解釈されることは、けっこう多いのです。