皇室に教わる“集い”の会話術

堅苦しいというわけではありませんが、世にも緊張した会食の経験があります。

父が故あって、さる皇室の殿下と妃殿下をレストランへお招きすることになりました。荷が重いと思ったのか、同伴者として母のみならず、娘の私と、他にも親しい友人を呼び集め、合計8人の宴となりました。長テーブルに4人ずつが対面に並び、殿下と妃殿下は内側の席にはす向かいにお座りになりました。

まずは父自作のドライ・マルティニで乾杯。そう、実は父がどこかに「私はドライ・マルティニを特別のグラスで作るのが好きである」などと書いたためか、それを耳にされた殿下が「一度、阿川さんの作るドライ・マルティニを飲んでみたい」と仰せられたのですが、まさか粗末な拙宅にお招きするわけにもいかず、懇意にしているレストランの個室を予約して、お招きした次第です。

私は添え物、というか、父が困ったときの助手役という覚悟で臨んだつもりではありましたが、黙ってご飯を食べているだけでは許されません。とはいえ、積極的に話題を提供するのも憚られる。それとなく自然に、しかし粗相のないよう余計なことは言わないで、笑みを絶やさず精一杯、猫かぶりの娘を演じておりました。私だけでなく、母や他の同伴者も、同じ思いだったはず。

威圧感はないものの、自由気ままにお喋りができるといった雰囲気ではありません。どなたかが言葉を発すると、必然的に耳を傾け、ニッコリ笑って頷いて、ゆっくりグラスを傾けて、さりげなくフォークとナイフを動かして、上品そうに料理を口へ運ぶ。その繰り返しをするしかないのです。

そんな時間が過ぎるうち、私はあることに気づきました。