人には会話をするとき、無意識にしている「話し方のクセ」というものが多かれ少なれあるものです。しかしながら、会話の際の「話し始めの言葉」には、とくに心を配る必要があると、エッセイストの阿川佐和子氏はいいます。阿川氏の著書『話す力 心をつかむ44のヒント』(文藝春秋)より、相手と心地よいコミュニケーションのために知っておきたい会話のコツについて、詳しくみていきましょう。
どんな接続語で会話を始めるか
会話の頭にどんな接続詞をつけるか。それは人によってさまざまです。
ちなみに私は、インタビューの中で、「でも」を冒頭につけて会話をすすめる悪い癖があり、気をつけているつもりなのですが、つい出てしまいます。
「でも」はそもそも逆接を意図する接続詞です。だから「でも」をつける以前に言った、ないし聞いた話の内容と、逆のことを発言したいときに使うべき言葉です。
正確な用法としては、
「昨日、お財布を落としちゃった」
「あら大変」
「でも、中身は小銭が少しだけだったから、被害は小さくて済んだの」
「まあ不幸中の幸いね」
「でも、そのお財布、ブランドもので高かったのよ。すっごく悔しくて」
「でも、買ってくれたのは、旦那様なんでしょ?」
「でも、所有者は私だもん!」
そんな感じでしょうか。
ところが私は会話の中で、必ずしも逆のことを言おうとして使っていない場合が多いのです。たとえば相手が、
「さんざん迷ったんだけど、ようやく引っ越し先が決まったの」
と言ったのに対し、
「でも、大型犬も入居可なんでしょ。あなた、犬が命だもんね」
この「でも」に逆接の意味はありませんね。あるいは、対談のゲストが、
「大学を卒業したあと、しばらく仕事もせずにフラフラして、劇団に入ったのは30歳近くなってからなんです」
とおっしゃったのに対し、
「でも、あの映画の大ヒットは、32歳のときですよねえ」
これも、逆接と言うには、やや無理がある。
つまり私自身の気持としては、相手が話しているポイントから少し話題をずらそうとするときに、どうやら「でも」を使いたくなる傾向があるようです。そんなに意識はしていなかったのですが、あるとき自分の出ているテレビ番組を観て気がつきました。なんと「でも」を頻繁に使っていることか。しかもそれが逆の意見や質問をしようという意味ではないのに使っている。我ながら呆れました。
別に「でも」の使いすぎで𠮟られたことはないですが、あまり同じ接続詞を多用するのは、会話として美しくないですね。でもね! 話し方の癖というのは、なかなか自分では気づきにくいものなのです。