妻亡き後、一人暮らしをする80歳父親の「終の棲家」を探す

Aさん(男性・50歳)の父親は今年で80歳になります。昨年妻を病気で亡くし、現在は築45年の一軒家で暮らしています。しかし、1人で住むには広過ぎて、徐々に管理も大変になってきたそうです。

Aさん自身は仕事の関係で遠方に暮らしており、一緒に暮らすことは難しいという事情があります。年齢なりに衰えはあるものの、まだ元気なうちに引っ越しておきたいという父の意向もあり、Aさんは父と共に転居先を探し始めました。

とはいえ、狭い家に移ってまた1人暮らしをするというのも、父の年齢を考えれば心配です。そのため、万が一のときにも安心な「施設」への入居がいいのではという話になりました。

健康に不安がある高齢者が入居できる施設は、大きく分けて2種類あります。介護を必要とする人が暮らす施設と、日常生活の一部を補助してもらう比較的元気な人も入居できる施設です[図表1]。

[図表1]主な老後の住まい(種類と費用)

また、施設ごとにかかる費用も大きく違います。いくら「この施設を利用したい」と思っても、その資金がなければ入居することはできません。そのため、施設入居にいくら捻出できるのかを考えることが必要になります。

Aさんは、施設探しの話が出たところで内心不安になりました。「父の安全はもちろん大切だけど、施設にかかる費用を父はどれだけ出せるのだろうか…」

施設入居にまつわる費用は親の収入や資産の中から捻出する

Aさん自身には子どもが2人いて、下の子は来年大学に入学する予定です。父のことを心配する気持ちはありますが、施設入居の資金を手助けする余裕はないというのが実情でした。

ここで気をつけたいのは、入居にまつわる諸々の費用は、親の収入や資産の範囲内で行うということです。もちろん、子の家計に余裕があればその限りではありませんが、基本的には親自身が支払える金額の中から入居先を検討するようにしましょう。

冷たいようですが、親が介護を必要とするタイミングは、子どもの世帯でも出費が重なる時期にあたるケースが多いのです。子どもがいれば教育費が必要であったり、住宅ローンを支払っていることもあるでしょう。

いずれ子ども自身も介護を必要とする時期がやってきます。子の世帯の家計のバランスが崩れてしまうと、そもそも親の介護を手伝えなくなったり、悪循環に陥ってしまう可能性があります。

施設の予算を決める際は「親の資産+毎月の収入×入居する見込み年数」から、もしもの時の費用を差し引いた金額を目安にすると良いでしょう。

Aさんの父親の年金は約18万円/月。また、毎月の収入として株式の配当約2万円/月もありました。そのほかに預貯金が約2,500万円、株などの有価証券が約1,000万円、持ち家の一軒家(売却の見込み価格は約3,000万円)という資産状況でした。

Aさんは父の年金の額は大まかに聞いていたものの、資産全体でいくらあるのかといった話をきちんとしたことはありませんでした。親子とはいえ、気を使ってなかなか聞けなかったのです。しかし、今回の施設探しをきっかけに真正面から話をすることができました。

蓋を開けてみると、資産をしっかり確保してくれていたことに一安心。「散財することなくお金を貯めておいてくれて、本当にありがとう」と心の負担も軽くなり、施設探しの手伝いを前向きに行う気持ちになりました。

また、Aさんの父はまだ元気で、介護を必要とする状態ではありません。とはいえ、過去に脳梗塞で倒れたことがあり、年齢を重ねるごとに体力も落ちてきています。

そこでAさんは、[図表1]の施設のうち、日常生活の補助がある「介護付き有料老人ホーム」を中心に探すことにしました。ここではスタッフが常駐しているので簡単な頼み事や相談ができ、3度の食事の提供や安否確認をしてくれます。

Aさんの父は、自宅を売却する必要があり、加えてある程度時間をかけて施設を検討したいため、2年後の82歳を目処に入居して、95歳までの13年間を施設で過ごすと仮定しました。また、株式は子どもに相続したいとの意向でした。

よって、預貯金2,500万円+自宅を売却したお金3,000万円+年金・配当の20万円×12カ月×13年間=8,600万円。ここからもしもの時の入院費用やお葬式の費用として600万円を差し引き、施設探しの予算は上限8,000万円とすることにしました。