公的年金は複雑な制度であり、要件を満たすことで上乗せで支給できるものもあります。しかし、受給要件を満たしていても気づかずに受け取っていないケースが少なくありません。不動産会社を定年退職したタダシさん(仮名・68歳)もその一人です。ねんきん定期便に記載された年金額に満足していたタダシさんですが、自治体の年金セミナーをきっかけに、自身が受け取れるはずの年金を見落としていた可能性があることを知ります。見落とされやすい年金制度の仕組みや申請時の注意点について、辻本剛士CFPが解説します。
こんな制度があったのか!ねんきん定期便の「年150万円」に満足げな68歳男性。年金事務所で知った〈年42万円増額〉に歓喜【FPが「加給年金」を解説】
ねんきん定期便の「年150万円」を見て、定年後も働くことを決意
タダシさん(仮名・65歳)は、58歳の妻と二人暮らしです。現在は、不動産会社の営業職として働いているタダシさんですが、これまでのキャリアは一筋縄ではいきませんでした。個人事業主として働いていた時期や、仕事に就いていなかった時期もあります。
それでも、不動産会社へ入社してからは持ち前の営業力を発揮し、年収1,000万円を超えることもありました。
そんなタダシさんですが、今月で定年を迎えます。老後の生活が気になり、改めてねんきん定期便を確認すると、老齢年金の見込額は「年間150万円」と書かれていました。厚生年金の加入期間は18年と短いものの、高年収だった時期が反映されていることもあり「思ったよりもらえるな」と満足気です。
もっとも、年間150万円を月額に換算すると約12万5,000円。夫婦二人で生活するには心許ない金額です。
そこでタダシさんは、前職のつながりで紹介されたマンション管理人の仕事を引き受けることにしました。給与は月15万円ほどで、厚生年金にも加入できます。
「まだ元気だし、家にいるより働いていたほうが性に合っている」
そう考えたタダシさんは、年金を受け取りながら新たな仕事をスタートさせたのでした。
年金セミナーをきっかけに気づいた「年42万円」の存在
それから3年が経ち、68歳になったある日のことです。知人から「自治体が無料の年金セミナーを開催するらしい。一緒に行かないか」と誘われ、特に予定もなかったタダシさんは、軽い気持ちで参加することにしました。
セミナーでは講師のファイナンシャルプランナー(FP)が、国民年金や厚生年金、遺族年金などについてわかりやすく解説していきます。そのなかで、加給年金の話題が出ました。
「厚生年金の加入期間が20年以上あり、65歳未満の配偶者を扶養している場合は、加給年金を受け取れる可能性があります」
妻はまだ61歳で、タダシさんとは7歳差です。その説明を聞いたとき、タダシさんはあることを思い出しました。
「そういえば、65歳のときは加入期間が18年だったよな。でも、そのあと3年働いてるから20年を超えているんじゃないか?」
ただ、ねんきん定期便などに加給年金の記載はありません。
「対象なら最初から書いてあるはずだよな……」と半信半疑のまま、セミナー終了後に講師のFPへ相談してみました。事情を説明すると、FPは少し考えたあとこう答えます。
「もしかすると加給年金の対象かもしれません。一度、年金事務所へ確認してみてください」
翌日さっそく年金事務所を訪ねると、担当者から告げられたのは、思いもよらない言葉でした。
「タダシさんは加給年金の受給対象です」
申請手続きを行えば、
「こんな制度があったのか!」
思いがけない年金の増額に、タダシさんは思わず笑みを浮かべました。
