首都圏の親が子どもに「私立中学」への進学を望むワケ

話を安藤氏の行動遺伝学に戻すと、分析結果で注目すべきなのは、子どもの学業成績に非共有環境の影響が29%を占めている、ということだろう。これは例えて言うなら、「盗んだバイクで走り出す」ような友達が周りにいるよりも、「成績が良いほうが格好良い」と思うような友達が周りにいたほうが、学力が上がるということだ。

では、どんな地域にどんな子どもたちが多いのか。少し調べれば、自治体ごとに大学進学率や中学受験率に大きな地域差があることが分かる。つまり、住む場所が学力に影響を及ぼすのだ。

文部科学省の令和3年度(2021年度)学校基本調査の結果によれば、学校所在地を基準とした中学生の私立中学校在籍率(居住地別ではないことに注意)は、全国では7.5%だが、東京都は25.2%と突出して高い。地方の県立高校を出た筆者には、私立中学に対する実感値はないが、私立中学を選択するということは、非共有環境である子どもの友達関係をできるだけリスクのないものにしたい、という親の意識が働いているのだろう。

もちろん、「自然環境が豊かな場所でゆったりと子育てしたい」「多様な家庭環境の子どもと一緒に育つことが、社会でもまれたときの力になる」といった考え方もある。ただし、それが子どもの将来にプラスになるかどうか、明確な根拠があるわけではない。

また政府や自治体の子育て支援策の充実度と、どんな子どもたちが周囲にいるかの相関関係も明らかではない。

ここまでのデータや先行研究の結果を見ると、子どもの将来の幸せを担保する重要な要素の一つが学力を高めることであり、学力を高めるためには周囲に学力志向の高い子どもたちが多いという環境要因が大切だということになる。そのためには、東京都のような大都市部の私立中高一貫校が多い地域に住むのが良さそうだ。

ただし、それが社会的な合意が得られた結果とは限らず、我々が目指してきた社会、目指すべき社会の姿として適切なものかどうかも分からない。ただ一つ言えるのは、親は誰しも子どもが幸せになることを願っているということだろう。

宗 健

麗澤大学工学部教授/AI・ビジネス研究センター長