持ち家の住み替え元の家は売るべきか、貸すべきか

賃貸住宅の場合には、高齢になるとなかなか貸してもらえなくなるという問題があるが、基本的に住み替えの自由度は高い。一方、持ち家の場合には、住み替え先が賃貸であろうと、新たに購入するのであろうと、現在の持ち家を売るべきか、貸すべきか、という問題に直面する。

家族が増えた、逆に子どもが独立した、親の介護のために同居を決めた……、様々な理由でせっかく手に入れた持ち家から住み替えざるを得ないケースがある。そんなとき、元の家を売るべきかどうか、決断を迫られることになる。

国土交通省住宅局の「令和3年度(2021年度)住宅市場動向調査報告書」(令和4年3月)によれば、分譲住宅を2回目以降に取得した場合(これを「二次取得者」という)、住み替え前が戸建て住宅だった場合は63.2%、住み替え前が集合住宅(マンション)だった場合は80.3%が売却している。どうやら、持ち家から住み替えるときは、元の家を売ってしまうケースが多いのが現状のようだが、実は正解ではない。「元の家を売らず、貸せるなら貸す」というのも重要な選択肢である。

売却せず貸すことが正解の場合も多い

「住宅ローンは強制積み立ての個人年金」であり「お金を借りることも個人の才能の一つ」だ。「お金を借りる」という個人の才能を最大限に生かすなら、もし次の住まいの住宅ローンを銀行が貸してくれるのであれば、住み替え前の家を売却する必要はない。

もちろん、次の家を購入するときに新たな住宅ローンを銀行が貸してくれるかどうかは個人の資産や所得の状況、年齢などによって異なるが、そもそも、元の家を売却しないことを前提にした資金計画を考えるケースはまれなのではないだろうか。

しかしデータを見れば、必ずしも元の家を売却せずとも新たな住宅ローンを借りられる可能性が一定程度あることが分かる。

前出の住宅市場動向調査のデータによると、分譲マンションでは二次取得者の平均年齢は56.7歳で、半数強が60歳未満、約3割が50歳未満となっている。世帯年収も平均1,086万円と1,000万円を超えており、過半数の世帯の年収が1,000万円超だ。共働き世帯なら、世帯年収1,000万円というのは特殊な事例ではない。

そして、総務省統計局の「2021年家計調査」によれば、2人以上の世帯のうち、勤労者世帯で世帯年収982万円以上(平均年収1,311万円)の貯蓄現在高は2,664万円となっている。当然だが、世帯年収が1,000万円を超えてくると貯蓄額もかなり多くなっており、その蓄えを使えば、次の家の住宅ローンを組む際の頭金は確保できるだろう。

また、元の家を売却せずに賃貸に出した場合、家賃収入で月々の住宅ローンの支払いと管理費・共益費、固定資産税や賃貸管理の委託料を賄える場合が多い。だとすれば、放っておいても毎月借入金が減っていき、資産が自動的に増えていくことになる。持ち家を貸すのは、比較的リスクの低い投資でもあるのだ。

ただし、注意しておく点がある。それは、元の家の住宅ローンを借りている銀行に「家を貸すことにしました」と申告することだ。

住宅ローンは、自分と家族が住むことを前提に審査が行われ、一般的なローンよりも金利は低く、住宅ローン減税の恩恵も受けられる。そのため、自ら住むことを前提とした住宅ローンのままで他人に貸すことは契約違反であり、最悪の場合は、一括返済を求められる。

きちんと銀行に申告すれば、金利の見直し(上乗せ)で対応してくれることが多い。上がった金利を適用しても、家賃収入で住宅ローンの返済などが賄えるなら貸せばいい。

宗 健

麗澤大学工学部教授/AI・ビジネス研究センター長