子どもの学力は遺伝と親の努力とお友達が決める

子どもの学力を親の社会経済的背景(SES:家庭の所得、親の学歴)から分析したお茶の水女子大学の「平成29年度(2017年度)全国学力・学習状況調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」では、

  •  「おおむね世帯収入が高いほど子どもの学力が高い傾向が見られる」
  •  「保護者の最終学歴については、学歴が高いほど子どもの学力が高い傾向が見られる」
  •  「大都市では SESの高い学校には、高い学校外教育費を支出している保護者が多く」

といった記述がある。

これは、親の学歴が高いほど所得が高く、所得の高さは学習塾など子どもへの教育投資の多さにつながって学力差を生み出している、という一般的な理解に沿ったものだろう。

一方で、近年は行動遺伝学という学問領域での研究成果が蓄積されてきている。例えば、慶應義塾大学の安藤寿康教授が2011年に出版した『遺伝マインド』では、タークハイマーが提唱した行動遺伝学の3原則、①遺伝の影響はあらゆる側面に見られる ②共有環境の影響は全くないか、あっても相対的に小さい場合が多い ③非共有環境の影響が大きい、ことが紹介されている。

共有環境とは簡単に言えば、子どもたちが共有している家庭環境のことであり、非共有環境とは、兄弟姉妹であっても異なる環境、すなわち友達関係のことを指している。

そして安藤氏は、小さい頃に養子に出されたといった理由で全く違う環境で育ったが、全く同じ遺伝子を持つ一卵性双生児を研究することで、様々な倫理的・行動的形質の遺伝・共有環境・非共有環境の影響を分析している。

研究では、音楽は遺伝が92%、非共有環境が8%、共有環境がゼロ、スポーツは同様に遺伝85%、非共有環境15%、共有環境ゼロ、美術は遺伝56%、非共有環境44%、共有環境ゼロ、という結果が示されている。スポーツ選手の子どもはスポーツが得意だということは、多くの人が納得できるだろう。

一方、幼少時に親から学ぶ言語性知能に関しては、遺伝の影響は14%、非共有環境の影響も28%と低く、最も影響が大きいのは親の子育てである共有環境で58%を占める。そして学業成績は、遺伝が55%、非共有環境が29%、共有環境が17 %となっている。

言語能力については、国立情報学研究所社会共有知研究センター長の新井紀子教授が著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』で、日本語がきちんと分かるという言語能力が学力の基盤である、と指摘しており、読み聞かせや親の会話での語彙や表現の多様さが子どもの言語能力を発達させ、それが学業成績を向上させるという側面があると分析している。

学業成績の過半は遺伝の影響によるとはいえ、親も含めて勉強や読書が日常生活の一部になっているような子育てが学力を押し上げる、ということなのだ。

そうした意味では、2021年にテレビドラマにもなった漫画『二月の勝者』で、中学受験について「君たちが合格できたのは、父親の経済力、そして母親の狂気」というせりふに根拠がないとは言い切れない。