誰もが直面する「親の介護」。そんな日が来ることが想像できず、「もし親に介護が必要になったら」の準備ができている人はどれほどいるでしょうか。実際に親の介護に直面したら……頑張りすぎて限界を迎えることも珍しくありません。そのようなときは、国の制度に頼ることも選択肢のひとつです。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが具体的な事例を交えて解説します。
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筆者の助言…介護離職をせずに生活を改善する方法
介護離職をしなくても済むように、この国には「介護保険」があります。
介護保険サービスは大きく3つに分けられます。
1つは「訪問サービス」です。自宅へ介護職や看護師、リハビリの専門職が来て入浴介助やリハビリなどさまざまなサービスを受けられます。
2つ目は「通所サービス」です。日中にデイサービスなどへ通って食事や入浴、リハビリなどのサービスを受けられます。その間、家族は自分の時間を過ごすことができます。
最後に、「入所サービス」です。こちらは自宅での生活が難しくなった人のためのもので、生活の拠点が自宅から介護施設へ移ります。お金に余裕がなく、介護度が重度となると特別養護老人ホームなど、年金の範囲で入居できる施設があり、日常生活に必要な介護(食事、排泄、入浴など)が受けられます。
これらをうまく活用することで、家族にかかる介護の負担は大きく軽減されます。
また、介護離職を選択せずとも、国の制度には介護休業制度があります。
「介護休業制度」とは
① 「介護休業」
介護休業とは、労働者が要介護状態(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するための休業です。対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できます。
雇用保険の被保険者で一定の要件を満たす人は、介護休業期間中に休業開始時賃金日額の67%相当額の介護休業給付金が支給されます。
② 「介護休暇」
介護休暇は年5日まで取得可能です。1日または時間単位での取得ができるため、通院の付添いや介護サービスの手続代行の場合に利用でき、ケアマネジャーとの打合せなどにも活用できます。
③ 「短時間勤務等の措置」
事業者は「短時間勤務の制度」もしくは「フレックスタイムの制度」「介護費用の助成措置」など、その他これに準ずる制度を1つ以上導入しなければなりません。
短時間勤務等の措置については事業者ごとに違いますが、対象家族1人につき利用開始の日から連続する3年以上の期間で2回以上の利用が可能です。
④ 「所定外労働の制限(残業免除)」
所定外労働の制限(残業免除)は1回につき、1ヵ月以上1年以内の期間で利用でき、回数の制限はありません。事業主は申請があった場合、残業を免除しなければなりません。介護で残業ができない時は「所定外労働の制限(残業免除)」を利用しましょう。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、事業主は労働者からの請求を拒めます。
⑤ 「深夜業の制限」
介護が終了するまで深夜(午後10時から午前5時まで)の労働を制限することができます。利用できるのは1回につき、1ヵ月以上6ヵ月以内の期間で回数の制限はありません。介護で深夜に働けない時は「深夜業の制限」を利用しましょう。
Aさんは介護離職を思いとどまり、介護休業の申請を決断
筆者からこれらの助言を受けたAさんは、まずは介護休業制度の申請をすることに決め、感謝の言葉を残して帰っていきました。
介護離職の問題は、介護休業制度や介護保険サービスを利用することである程度解決できます。介護は急に起こるため、まずは慌てずに「どのようなサービスや制度があるのか」を知ることが大切です。1人で背負い込んで無理をする必要はありません。
最期の看取りの時期であれば介護期間も短く、悔いを残さないためにも介護離職という選択肢もありますが、介護が終わった後の自らの生活も考えておく必要があります。
困った時には地域包括支援センターや自治体の相談窓口で情報収集してみてはいかがでしょうか。
武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役