医学常識はいまも変わり続けている

フィンランド保健局が1974年から80年にかけて40~45歳の男性管理職1222人を対象に調査したデータです。4か月ごとの健康診断に基づいて数値が高い人には薬を処方し、個人の健康管理などを行う「介入群」612人と、健康管理に介入しない「放置群」610人に分けて追跡調査をしたところ、がんによる死亡率、心血管系の病気の罹患率や死亡率、挙げ句は自殺者数に至るまですべて「介入群」のほうが「放置群」より高かったのです。

ここでちょっと補足しておきますが、コレステロールは細胞膜の主原料で人間が生きていくためには欠かせないものです。よく「悪玉」「善玉」と呼んで区分することがありますが、どちらも人間にとって重要な働きをしていることに変わりはありません。

けれども循環器の医者から見ればLDLコレステロール、つまり「悪玉」が増えすぎると血管壁に入り込んで動脈硬化の原因になるとされます。ところが免疫学者に言わせればコレステロールは免疫細胞の材料になるからコレステロール値が高い人のほうが免疫力が高いとなります。

あるいはコレステロールは脳にセロトニンを運ぶ働きもあるとされますから、数値が高い人ほどうつになりにくいという報告もあります。さらには老年医学の立場から見れば、コレステロール値の高い人のほうが男性ホルモンが多いため、齢を取っても活性が高いといった研究もあります。「コレステロール値が多少高いほうが病気も少なく、長生きできる」と主張する医者だっているのです。

つまり「こっちにとっては悪くても、あっちにとってはいいこと」というのはしばしば起こり得るのです。しかしいくらこういうデータを並べても、循環器の医者が自分の狭い立場にこだわる限り、「そっちには良くてもこっちには悪いこと」となります。健診で数値に異常が見つかればそれを正常に戻すことだけ考えますから、相変わらず薬と食事制限を申し渡すでしょう。

ちなみに2015年には、コレステロールを「悪玉」視していた厚生労働省も摂取制限を撤廃しました。卵や肉などいくら食べても大丈夫ということになりました。10年もたてば医学常識が変わることなど、いくらでもあるのです。