年金は高齢になったときに受け取るもの、というイメージが強いのではないでしょうか。実は、公的年金には「老齢年金」だけではなく、重度の障害を負った時に受け取る「障害年金」や一家の生計を支えていた人が亡くなった時に遺族が受け取る「遺族年金」があります。ただし、複数の年金を受給できる権利があったとしても、全額を受給できるわけではないという点には注意が必要です。今回は、71歳の夫に先立たれ、老齢年金と遺族年金の受給権がある妻Aさん(67歳)を例に、意外と知らない年金受給のルールについて南真理FPが解説します。
月35万円の年金生活で「夫婦水入らずの老後」を満喫していた矢先、71歳夫が病死…悲しみに追い打ちをかける〈衝撃の遺族年金額〉に遺された妻「この先、私の生活はどうなるの?」【FPが解説】
「え、年金が半分以下に!?」夫亡き後の年金額を知った妻Aさんの衝撃
妻Aさん(67歳)は、長年連れ添った最愛の夫Bさん(享年71歳)をがんで亡くしました。現役時代は共働きで忙しい毎日だった2人。子どもは既に独立して手を離れていますが、妻Aさんは少し前まで仕事をしていました。
病気が発覚したのは、ようやく妻Aさんが仕事を退職し、夫婦共通の趣味である旅行やゴルフを楽しみ始めた矢先だったこともあり、妻Aさんの喪失感は大きなものでした。
妻Aさんは、夫の葬儀告別式を無事に終え、少しほっとしたものの、まだ気持ちの整理がつかずにいました。そんな状態でも、妻Aさんにはやるべきことがありました。それは、夫の死亡に伴う役所関係や金融機関等の手続きです。
まず、年金事務所に今後の年金受給額と必要書類を確認するために出向きました。そこで妻Aさんは思いがけない年金受給額を担当者から告げられたのです。これまで月35万円ほどあった年金額が、夫亡き後は半分以下になるというのです。
一通り説明を聞いたものの、内容を理解できたとは言えず、言いようのない不安がこみ上げてきました。妻AさんにはFP事務所を開業している姪のMさんがいます。年金事務所で告げられた内容が理解しがたかったため、FPであるMさんにもう一度説明してもらえないかと相談しました。
「それは驚いたよね。実は、年金を受け取るときにはルールがあるんだよ」Mさんはそう言って、年金のルールを話しはじめました。
「亡くなった後も年金は家族がそのまま受け取れる」は誤解
日本の公的年金制度は、国民年金(基礎年金)と厚生年金の2階建てです。そのため老齢基礎年金と老齢厚生年金、障害基礎年金と障害厚生年金、遺族基礎年金と遺族厚生年金の組み合わせは、支給事由が同じであり、1つの年金とみなされ、両方を受給することができます。
一方、支給事由(老齢、障害、遺族)の異なる2つ以上の年金を受給できる要件を満たしたときには、どれか一つを選択する必要があります。これを「1人1年金の原則」と言います。
説明を聞いた妻Aさんは、「お父さん(夫Bさん)がもらっていた年金はどうなるの? お父さんと私の年金を両方もらえると思っていたから、十分生活していけると思っていたのに……」と、悲壮な声でMさんに訴えました。
「残念だけど、おばさんの場合、受け取れるのはおじさんの年金の一部だけだよ」と、Mさんは言います。