歳を重ねるにつれて、自らの老後だけでなく、自分が亡くなった後の家族が生活に困らないための対策も必要になってきます。最愛の夫を亡くしたAさん(66歳)は、遺族年金額の「あまりの少なさ」に絶望しましたが、亡き夫からの「最期のプレゼント」に思わず涙しました……。ファイナンシャルプランナーの石川亜希子氏が、事例をもとに解説します。
お父さん、ありがとう…年金月7万円の66歳女性「遺族年金額」に絶望も、亡き夫からの“プレゼント”に涙【FPが解説】
亡き夫がAさんに遺していた「3つのプレゼント」
「えっ、どういうこと?」
「うん。3つあるんだけどね」
そういうと、長男は下記のように説明をはじめました。
1.暦年贈与
「母さん、父さんから毎年50万円ずつ受け取っていたでしょ。それは『暦年贈与』というしくみを使って、税金がかからないようにしてくれていたんだよ」
「暦年贈与」とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)で、贈与額を110万円以下とすれば贈与税がかからないというものです。非課税で毎年お金を移せることから、有効な相続税対策として知られています。
夫のBさんに言われるがまま、毎年受け取っていた50万円にそんな意味があったのかと、Aさんは驚きました。
2.生命保険
「あと、父さんが入ってくれていた生命保険金も、母さんが受けとれるはず」
Bさんは生命保険に加入していたため、Aさんは死亡保険金の受取人として、1,000万円を受け取ることができます。
なお、保険金の受取人が誰かによって所得税、相続税、贈与税のいずれかの課税対象になりますが、今回のように、被保険者と保険料の負担者が夫Bさん、受取人が妻Aさんの場合は上記のうち「相続税」の対象です。
しかし、Aさんは法定相続人であるため、500万円×法定相続人の人数分は非課税となります。これは、死亡保険金には「残された家族の生活保障」という意味合いもあるためです。
夫が、Aさんの手元になるべく多くの財産を残す方法をきちんと調べていたことを知り、Aさんは夫の思いに感謝するとともに、亡き夫の愛情に思わず涙しました。
3.配偶者居住権
「あとね、いまの母さんには、「配偶者居住権」っていうのがあるよ」
「配偶者居住権……? なに、それ?」
「配偶者居住権」とは、2020年に新しく民法で認められるようになった権利です。それまでは、たとえば配偶者と子どもで2分の1ずつ遺産分割を行う場合、“2分の1”にするために自宅の売却を行って現金化するなど、配偶者が住み慣れた自宅を手放さなければならないケースも少なくありませんでした。
しかし、「配偶者居住権」ができたことで、不動産を“居住する権利(配偶者居住権)”と“所有する権利”が分割され、配偶者は自宅を手放さずに遺産を分割できるようになったのです。
「でもそれだと、あなたたちのほうが不利ってことにならない?」
「ううん、平等だよ。それに、遺言書に父さんがそう書いていたから、遺言書どおりにしよう。父さんと母さんが苦労して俺たちを大学まで行かしてくれたこともわかっているし、それに俺たち子どもも、しっかり父さんからのプレゼントをもらっているから」
Bさんは、「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」を利用して、孫への教育資金として息子たちにもまとまった金額を贈与していました。この贈与は、暦年贈与と併用することができます。
「私だけでなく、子どもたちや孫のことまでしっかり考えていたなんて……」
Aさんは電話を切ったあと、涙でにじんだ空を見上げながらつぶやきました。
「『難しい話はおまえにはわからないから』ってなにも話してくれなかったけど、直接お礼を言いたかったな。……お父さん、ありがとう。最期のプレゼント、大切に使わせていただきます」
「まだ元気だから大丈夫」ではなく、元気だからこそ“万が一の事態”への備えを
Bさんのように、自分が亡くなったあと家族が生活に困らないよう、生前に準備をしておくことはとても大切です。
しかし、今回見てきた事例はあくまで一例です。生前贈与や保険金の受け取りにおいてはさまざまな要件があり、それぞれの事情によって当てはまる場合と当てはまらない場合があります。
さらに、法改正などにより制度もどんどん変わっています。したがって、最新の制度についても可能な範囲でチェックしながら、もし自分だけでは難しいというときは、専門家に相談のうえ検討するといいでしょう。
石川 亜希子
AFP