新型コロナウイルス感染症のワクチン接種は、発症や重症化を防ぐのに有効であることが証明されています。一方で、副反応の報告が増えていることもたしかです。本稿では、2012年の上皇陛下(当時の天皇陛下)の心臓手術を執刀した経験もある心臓血管外科医の天野篤氏による著書『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー)から一部抜粋し、新型コロナウイルスのワクチン接種と心臓トラブルの関係性について解説します。
60代、70代は要注意…新型コロナの“ワクチン接種”を機に増加した「ある恐ろしい心臓病」【上皇陛下執刀医が解説】
ワクチン接種が「思わぬきっかけ」となる可能性も
また、血圧を日頃から定期的に測り、把握しておくことも大切になります。先ほどもお話ししましたが、ワクチン接種後に血圧が上がるケースが多く見られます。
病院で計測した場合、「上の血圧(収縮期血圧)12mmHg未満/下の血圧(拡張期血圧)80mmHg未満」が正常の範囲です。それが、ワクチンを接種したあとの計測で前ぶれなく上の血圧が180程度、または下の血圧が130程度まで上昇する人が少なくないのです。この数値は、放置しておけば3年ほどで人工透析が必要になるようなレベルです。
ですから、日頃から血圧を測って数値を把握しておき、ワクチン接種後も含めて上が180、下が110 を超えるようなら、すぐに医療機関で診てもらってください。そういう人は、ある日突然、血管や心臓のトラブルを起こす”素養“があるということです。
心臓トラブルを起こす患者さんは、自分の血圧を正確に把握していないケースがたくさん見受けられます。先日来院された70歳の女性は、「いつも血圧は正常値です。病院でも自宅 でも、上は100もありません」とのことでした。しかし、血液検査ではBNPの数値が高かったのです。BNPとは「脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド」と呼ばれるホルモンで、血圧の上昇など心臓にストレスがかかると、それを和らげるために心室などから分泌されます。
つまり、BNPが高ければそれだけ心臓に負担がかかっている証しです。念のためCT検査をしてみたところ、上行大動脈が太くなっていることもわかりました。血圧が高くなければ、BNPが高くなったり上行大動脈が太くなったりすることはまずありません。そこであらためて血圧を計測してみると、「上150/下90」でした。その患者さんは、緊張や興奮などによって血圧が上昇するタイプだったのです。
こうしたタイプの人は、思わぬきっかけでいきなり心臓トラブルを起こすリスクが高いといえます。ワクチン接種がそのきっかけになってしまう可能性もないとはいえません。今までの生活習慣病とその自己管理の再点検がセットになっていると考えるべきです。
天野 篤
順天堂大学
医学部特任教授/心臓血管外科医