湿布薬は、飲み薬よりも安全性が高いというイメージがあるためか、多用している人も少なくありません。しかし、実は心臓に負荷がかかる副作用もあるため、安易に使いすぎると危険です。本稿では、2012年の上皇陛下(当時の天皇陛下)の心臓手術を執刀した経験もある心臓血管外科医の天野篤氏による著書『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー)から一部抜粋し、湿布薬の注意点について解説します。
肩こりや腰痛で「湿布薬」を貼ったら、まさかの血圧上昇。市販品でも心臓に負荷が…恐いのはよく聞く「あの成分」【上皇陛下執刀医が解説】
湿布薬はじつは要注意な外用薬
市販の湿布薬も含めて、血圧上昇を招く成分が入っている
ほとんどの人は、肩こりや腰痛で湿布薬を使ったことがあるのではないでしょうか。通院している医療機関で処方してもらえますし、ドラッグストアでも市販品を購入できますから、 もっとも身近な薬といっていいかもしれません。
しかし、手軽だからといって安易に使いすぎてはいけません。とりわけ、心臓にトラブルを抱えている人は注意が必要です。湿布薬には血圧を上昇させたり、病状を悪化させたりする危険があるのです。
湿布薬に含まれている代表的な成分は「フェルビナク」「ジクロフェナクナトリウム」「インドメタシン」の3つで、いずれも「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs=エヌセイズ)」に分類される薬剤です。解熱鎮痛剤のアスピリン、ロキソプロフェン、イブプロフェンも同じ分類です。
エヌセイズは、体内で炎症、痛み、発熱を引き起こす「プロスタグランジン」という生理活性物質がつくられるのを抑えることで症状を改善します。プロスタグランジンは「シクロオキシゲナーゼ(COX=コックス)」という酵素が作用してつくられることから、エヌセイズはその酵素の働きを阻害し、プロスタグランジンが産生される経路を抑制するのです。
これにより、体内で水やナトリウムの再吸収の抑制に関与している「プロスタグランジンE2(イーツー)」や「プロスタサイクリン」という生理活性物質の産生が抑えられます。 また腎臓の血管が収縮して、腎血流量が低下します。その結果、体内に水やナトリウムがたまりやすくなり、血圧の上昇や浮腫が生じるのです。
湿布薬を多用すると、降圧薬の効きが弱くなることもある
エヌセイズが血圧に及ぼす影響を検討した報告によれば、平均5mmHg程度の血圧上昇を招くとされています。血圧が正常な高齢者がエヌセイズの使用を開始した直後から、血圧が高血圧の範囲まで上昇し、使用を中断すると血圧が正常化したという報告もあります。それだけ、エヌセイズは血圧に影響します。
もともと高血圧の人であれば、エヌセイズの過度な使用は、狭心症、心筋梗害、大動脈解離といった心臓疾患を発症するリスクが高くなる可能性があるのです。
またエヌセイズは、ACE阻害薬、ARB受容体拮抗薬、利尿薬といった降圧薬と相互作用があります。普段から血圧の薬を飲んでいる人が安易に湿布薬を多用していると、気づかないうちに血圧の薬の効き目が弱くなり、血圧が高い状態のまま過ごすことにもなりかねないので注意が必要です。