日本でも時々話題になるユニークな会社のユニークな福利厚生やオフィス環境。社員にとってはウハウハな環境に思えますが、実はそれで得をしているのは社員ではありません。アメリカ在住のジャーナリスト、シモーヌ・ストルゾフ氏による著書『静かな働き方』(日経BP・日本経済新聞出版)の第7章「さらば、おいしい残業特典」から、雇い主がオフィスに求める役割について考えてみましょう。
「会議の合間にビーチバレー」「疲れたらマッサージ」みんなが憧れる〈グーグルの福利厚生〉だが…快適なオフィスを用意する企業の思惑とは?【米ジャーナリストが分析】
「しっかり働いて、さくっと帰ろう」を体現 スラックのオフィス
一方で法人向けにコミュニケーションアプリを提供しているスラックは、サンフランシスコの本社で自社製品が促進しているこの現象に対抗しようとしている。本社の壁に描かれた「しっかり働いて、さくっと帰ろう」のメッセージは、同社の仕事に対する哲学をひと言で表すものだ。
「あなたが雇用主に引きつけられる理由が無料のカップケーキであるなら、その正当性についてよく考えてみるべきだ」とスラックの元グローバル施設ディレクターであるディーノ・ロバーツは話す。オフィスの目的は従業員が仕事を片付けるのを助け、それが終わったのなら普段の生活に戻れるようにすることだという。
グーグルプレックスと比べると、スラックの本社は地味に感じた。ジムも、等身大ジェンガも、廊下をブンブン走り回るスクーターもない。そこは、要するに働くための場所のように感じられた。
そもそもオフィスは働くための場所なのだ。オフィスが社員にとって行きつけのバーやジム、レストランである必要はない。もちろん会社がそうしたものを提供することが悪いという意味ではない。でも、仕事は生計を立てる手段なのだ。そして仕事が終わったなら、みな家に帰るべきなのである。
しかし、マウンテンビューで僕のツアーガイドを務めたブランドンにとってオフィスを去るという選択肢はほぼなかった。それはグーグルで働いていた6年間、彼の生活の拠点が会社の駐車場に停めた9平方メートルほどのバンだったからである。