繰り下げから5年…70歳になり年金事務所で告げられた言葉

山下武司さん(70歳)は、長年勤め上げた大阪の鉄鋼会社を60歳で定年退職し、その後も嘱託職員としてその場所で働いていました。現在は一人暮らしで、趣味は週末に仲のよい同僚と釣りに出かけることです。

山下さんは、ネット記事や会社の同僚などからの情報で、年金の「繰下げ受給」をすることで受け取れる年金が増額するということを漠然と認知していました。そのため、山下さんは60歳から受給できる「特別支給の老齢厚生年金」と、65歳から受給できる「老齢厚生年金」を受け取らずに繰下げ受給を選択し、自身の年金額を増やす計画を立てたのです。

そして、70歳の誕生日を迎えて年金事務所を訪れた際、山下さんを待ち受けていたのは衝撃的な事実でした。

年金事務所の担当者から、

「特別支給の老齢厚生年金の支給手続きがされていません」

さらに、

「未支給分の特別支給の老齢厚生年金は時効により受け取れません」

と告げられたのです。

繰り下げできない「特別支給の老齢厚生年金」

山下さんは頭が真っ白になり、思わずその場で「う、うそだろっ!?」と叫んでしまいました。受け取らなかった年金のすべてが「繰下げ受給」できていると信じていた山下さんにとって、この告知はまさに青天の霹靂です。

その後、山下さんは気を落ち着かせ、どういうことかを詳しく確認してみたところ、担当者は次のように説明しました。

「特別支給の老齢厚生年金は、65歳になる前に受給できる年金ですが、この年金は繰り下げることができず、山下様の場合は1954年生まれのため、61歳から受給を開始しなければなりません。また、あとから未支給分を請求することも可能ですが、5年の時効が設けられており、山下様のケースですと、5年をすでに経過しているため、未支給分の請求はできません」。

担当者が山下さんの未支給分を確認したところ、在職老齢年金による年金額カットを考慮しても、未支給分が約200万円にも上ることが判明しました。

「特別支給の老齢厚生年金」とは、1985年の年金改正により導入された制度です。この改正により、厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳へ段階的に引き上げられ、その移行期間をスムーズにするために設けられました。

年金の支給開始年齢が60歳から65歳へ段階的に引き上げられているなか、1954(昭和29)年3月生まれの山下さんの場合は、本来61歳が支給開始年齢です。この場合、61~65歳までの4年間「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れるはずでしたが、山下さんはその年金を受け取るための手続きをいっさいしていなかったのです。

引用:日本年金機構 特別支給の老齢厚生年金
【図表】特別支給の老齢厚生年金 受給開始年齢 引用:日本年金機構 特別支給の老齢厚生年金

山下さんはこの説明を聞いて、自分がどれだけ大きな誤解をしていたかを理解しました。年金制度の複雑さを甘く見ていたこと、そして、きちんとした確認を怠ったことを深く後悔することになります。