ドライバーなしで自動車が走る「自動運転」。2021年3月に日本で登場したホンダの「レジェンドハイブリッドEX」は、自動運転時に起きた事故の責任が車側に求められる「レベル3」となる、世界初の認証車となりました。鈴木均氏の著書『自動車の世界史』(中央公論新社)より、この先、普及していくであろう「自動運転」最前線を、詳しく見ていきましょう。
「渋滞運転機能」で運転中にカーナビ検索やテレビ視聴もできる〈ホンダ・レジェンド〉だが…“運転復帰要求”にドライバーが迅速に応じなかったらどうなる?【専門家が解説】
唯一無二の部品サプライヤー国「イスラエル」の台頭
自動運転の実現には、車の外の世界の正確な把握、最新のカメラ、ミリ波レーダー、LiDARセンサーなどのセンサー類が不可欠である。これらの性能とコストは、車の信頼性と完成度、価格、売れ行きに直結する要素だ。高性能なリチウムイオン電池の価格と性能がEVの価格と性能に直結することと同様に、完成車メーカーが部品サプライヤーの上位に位置するヒエラルキーが崩れつつある。
典型的な例が、イスラエルのエルサレムに本拠地を置くモービルアイである。モービルアイは1999年、ヘブライ大学のアムノン・シャシュア准教授が創設した、大学発のスタートアップだった。1960年生まれのシャシュアはAI実験室で働く傍ら、93年、33歳のときに米MITより脳・認知科学の博士号を取得した。帰国して96年よりヘブライ大学の情報科学科に所属し、カメラの視角情報処理によって衝突による死傷事故を低減する、との信念で、モービルアイを起業した。
モービルアイが開発したEyeQチップは、単眼カメラ、これから得た画像情報を解析する半導体とソフトが一つになった製品であり、これにより自動緊急ブレーキ、車線維持支援、アダプティブ・クルーズ・コントロール、渋滞運転機能、前方衝突警報などが可能になる。
最初にEyeQを採用したのは、2009年にBMWで初めてハイブリッド車をラインナップに加えた5代目の7シリーズだった。実績を積んだモービルアイは17年、イスラエル企業史上最高額で米インテルに買収された後、製品をフォルクスワーゲン、フォード、日産に供給している。
当初はテスラ・モデルSにも供給していたが、2016年に同車(自動運転中)初の人身死亡事故が起き、これを機に破談になっている。
その後、モービルアイは中国の吉利とEVメーカーの上海蔚来汽車(NIO)とも提携し、自動運転EV開発の最前線に陣取っている。同社は自動運転車の実証実験をニューヨーク、ミュンヘン、エルサレムなどで実施しているが、20年には日本のバス(旅行)会社ウィラーとの間で、日本、台湾、シンガポール、ベトナムで23年以降、ロボタクシーを実装すると発表している。
鈴木 均
合同会社未来モビリT研究 代表