年齢を重ねるにつれて、家族や介護ヘルパーからのサポートが必要になるのは致し方のないこと。しかし、「できる範囲でいいので、援助を受ける側より与える側になったほうがよい」と、心理学者の内藤誼人氏は言います。内藤氏の著書『老いを楽しむ心理学』(ワニブックス)より、その理由を詳しく見ていきましょう。
「至れり尽くせり」の生活は実は危険!?…高齢になっても〈人の助けを借りない〉ことがもたらす“驚くべき効果”とは【心理学者が助言】
援助を受けてばかりいることで起こる「ある変化」
援助は受けるのではなく、与えるほうがいいです。
なぜなら、他人から援助を受けていると、自尊心が低くなってしまうからです。ただ、本当に生活に困っているのなら、遠慮せず相談して援助を受けるべきですが。
お年寄りになると、援助を受ける機会が多くなります。しかし、一方的に援助ばかりを受けていると、「私はダメ人間だ」とか「私は無能だ」と感じやすくなります。そのため、できる範囲で、援助を受ける側より、与える側になったほうがよいのです。
米国ミシガン大学のジャージー・リャンは、65歳以上の1,103名について調べ、他の人から援助されるより、自分が援助する側の人のほうが、自尊心が高くなるという結果を得ています。なるべく他の人の世話にならないほうがよいのです。
自分で何もしないのは、たしかにラクですよ。しかし、ラクばかりしていると、活力がどんどんなくなってしまうということも覚えておいてください。
米国イェール大学のジュディス・ロディンは、とある老人介護施設にお願いして実験をさせてもらいました。もともとこの施設では、スタッフが何でもやってあげていました。入居者のお年寄りは、ただサービスを受けるだけ。ところが、至れり尽くせりのサービスをしているのに、なぜか死亡率も高かったのです。
ロディンはそこで方針転換をしてみました。スタッフが何でもするのではなく、入居者のお年寄りには、「自分でできることは、自分でやってもらう」ことにしたのです。自分で着替えることができる人には着替えてもらい、水やりができる人には施設内の植木に水やりをしてもらうようにしたのです。
するとどうでしょうか、入居者たちは、お互いによくおしゃべりするようになり、頻繁に笑うようになり、元気に歩き回るようになったのです。死亡率も下がりました。
自分でできることは、自分でやってしまうほうがいいのです。他の人のサポートばかり受けていると、無気力になり、自信もなくなり、元気も出なくなってしまいますから。
もし身体が自由に動くのであれば、料理を作ってもらうばかりではなく、自分で料理を作ってみましょう。だれかに買い物をお願いするのではなく、自分で買い物に出かけてみましょう。そのほうが毎日の生活も楽しくなってくるはずです。
「私はもう歳をとったのだから、他の人にやってもらいたいな」と思うのは間違いです。歳をとったら、むしろ他の人の分まで自分が何かをしてあげられるようになってください。そのほうが長生きもできます。
内藤 誼人
心理学者