大学卒業から定年退職まで上場企業を勤め上げ、再雇用ののち65歳で雇用期間を満了した年収1,000万円超のエリートサラリーマン。誰もがうらやむ「定年後は悠々自適な老後生活」が送れると思いきや、大きな落とし穴が待っていました。上場企業で部長職まで務めたIさん(66歳)の事例をもとに、高所得者が老後破産危機に陥る原因と対策をみていきましょう。
退職金2,000万円で「余裕の老後」と思いきや…66歳・元上場企業サラリーマンが定年後、「ジリ貧生活」を余儀なくされたワケ【CFPが回避策を助言】
さらに判明する「想定外の事実」に愕然…
また、よくよく調べると、企業年金月12万円は終身年金ではなく10年の有期年金でした。65歳から10年間のみ支払われる年金で、Iさんは、75歳以降は支払われなくなることをはじめて知り、愕然としていました。
ちなみに、生命保険文化センターによると、介護に要した期間は平均61.1ヵ月(5年1ヵ月)となっています(※3)。いつまで続くのかわらかないのが介護です。1年未満で終わることもあれば、10年以上続くこともあります。有期年金が出るだけでも、まだ幸運だったといえるでしょう。
なお、筆者が「今どのくらい生活費がかかっていますか?」と聞いたところ、Iさんは答えられませんでした。Iさんだけでなく、この問いに答えられない50代後半~60代前半のサラリーマンが多いことに驚かされます。
また、定年1年前に、はじめて自分の年金額の目安を知る人も多くいます。これまでの家計収支をどんぶり勘定ですませてきたので、定年後もどんぶり勘定でなんとかなると考えてしまっているようです。
計画的に行えば、老後資金問題は防げる
Iさんには、手元に現金がほとんどありません。「50代のころから老後資金の計画を立てておくべきだった」とIさんは後悔しきりですが、今からでも間に合います。
まずやるべきこととして、「今、どのくらいの生活費をかけているのかを把握する」ことが最重要です。Iさんは高年収だったため、生活水準が高いままになっていないかを検証する必要があります。家計の見直しを徹底的に進めて、自分たちの介護費用も捻出しなければなりません。また、手元資金がほとんどないため、株式投資については「運用益が出ているうちに一部売却し、もしもの時に備えるなど手元資金を確保しておく」ということをアドバイスしました。
また、今後、両親の特養への転居も検討事項です。
なお、Iさんには、収入を増やすために、たとえば介護や警備などのようなアルバイトをやってみてはどうか、と勧めましたが、管理職を経験しているためかプライドも高く、年齢的にも抵抗があるようです。また、ずっと専業主婦だった奥さんにも、何か少しでもパートをしてもらっては、と勧めましたが、今さら……とのことでしたので、このままだと趣味のゴルフや旅行を我慢せざるを得なくなる、と話すと、2人とも働くことを少し前向きに考え出したようです。
現役時代に余裕のある暮らしをしてきた分、老後になって急に経済的不安が出てきてしまうと、生活レベルを現状に合わせるのは、簡単なことではありません。それでも、定期的に支出と収入を把握し、将来の家計のシミュレーション表を年に2回作成するなどの方法で、お金を「見える化」する対策を講ずることができれば、お金の問題は必ず改善します。あきらめずに、向き合っていくことが大切です。
[参考資料]
※1 生命保険文化センター「老後の生活費はいくら必要と考える?」
※2 総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2022(令和4)年 家計の概要」
※3 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
水上 克朗
ファイナンシャルプランナー