健康や寿命を左右するのはズバリ「腸」…そう断言するのは、腸の名医・江田証氏。腸内環境は一人ひとり異なりますが、すべての人に共通する「長生きのための腸内細菌(=ご長寿菌)」もあり、これらを増やすことが健康長寿のカギになるといいます。本連載では、江田氏の著書『60歳で腸は変わる 長生きのための新しい腸活』(新星出版社)より一部を抜粋し、ご長寿菌の具体例や活用方法を紹介します。今回は「フェカリバクテリウム菌」について見ていきましょう。
【名医が教える腸活】健康&スリムな高齢者は“この腸内細菌”が多い!60代から積極的に摂りたい「身近な食材」とは?【アンチエイジング効果も】 このご長寿菌を増やそう!「フェカリバクテリウム菌」
<前回記事>
【名医が教える腸活】「ご長寿地域の高齢者」に多い腸内細菌…「酪酸菌」を増やす“医師おすすめの食材”
炎症を抑え、代謝を良くする「フェカリバクテリウム菌」
本稿でご紹介するご長寿菌は、健康なヒトの大腸に多く棲む腸内細菌の一つ「フェカリバクテリウム菌」です。正式名称はフェカリバクテリウム・プラウスニッツィ。フェカリは「便に関わる」、バクテリウムは「棒状の」という意味で、ほかの菌に比べて便に多く含まれ、人間以外のさまざまな生物の消化管内にも多数存在しています。
この菌の割合には個人差があるものの、全腸内細菌のおよそ5%を占めると考えられます。健康でやせ型の高齢者の腸内に多く存在していること、糖尿病などの疾患を持つ人の腸内ではこの菌が減少していることがわかっています。
フェカリバクテリウム菌もまた、酪酸をつくり出す菌として知られています。健康に有益な酪酸を産生するため、次世代のプロバイオティクス(人体によい影響を与える善玉菌)としても期待されています。
その主な作用は、炎症を抑える働きです。そのため、「抗炎症菌」と呼ばれることもあります。このほか、皮膚病(乾癬〔かんせん〕)、大腸がん、乳がん、脳の病気(多発性硬化症)などにも影響を与えると推測されています。
また、フェカリバクテリウム菌には代謝を上げる作用があります。
基礎代謝は40代を境に50代、60代でガクンと落ちていきます。その最大の理由は、加齢です。代謝が低いと食べ物の栄養がエネルギーとして使いきれず、余るようになり、脂肪に変わって蓄積されてしまいます。中年以降に肥満が増えるのはこのためです。また、代謝が下がると内臓の動きが悪くなり、冷え性や低血圧、低体温、疲れやすさ、肌荒れ、便秘など、さまざまな不調につながってしまいます。
フェカリバクテリウム菌を増やすことで、代謝が上がれば血流がよくなり、栄養がスムーズに運ばれて細胞が活性化。これら不調の改善や老化防止になります。
代謝アップには運動で筋肉量を増やすことも大切ですが、食事を見直すことで、手軽に健康的で若々しい体を目指せます。フェカリバクテリウム菌を増やすことが、アンチエイジングに役立つことは間違いありません。
フェカリバクテリウム菌を増やすには「褐藻」がおすすめ
フェカリバクテリウム菌を増やすなら、海藻、中でもワカメやコンブ、ヒジキ、モズクなどの褐藻がおすすめです。これらには、アルギン酸ナトリウム(体重増加を抑え、コレステロールを減少させる機能を持つ多糖類)という水溶性食物繊維が含まれており、これが栄養源となってフェカリバクテリウム菌を増やすことがわかっています。ほかにも、フラクトオリゴ糖を含む野菜や果物、食物繊維が豊富なゴボウなどを取り入れ、カロリーを控えた食事にすると、フェカリバクテリウム菌が増えやすくなります。
さらに最新の研究で、近年、健康食品として注目されるミドリムシが、フェカリバクテリウム菌を増やすことが判明しています。腸内の健康が改善するとともに、酪酸菌も増加。排便を促進することが示唆されました。
江田 証
江田クリニック院長、医学博士
毎日、全国から来院する患者さんを胃内視鏡、大腸内視鏡で診察し、おなかの不調を改善することに生きがいを感じている消化器病専門医。愛する故郷の人々をたくさん胃がんで失ったことから医師を志す。1人でも多くの胃腸の不調で悩む日本人を救っていくことがミッション。『世界一受けたい授業』(日本テレビ系列)などテレビ、ラジオ出演多数。『腸を治す食事術』(新星出版社)など著作の累計出版部数は90万部を超え、中国、韓国、台湾などで6冊の本が翻訳・出版されている。