給与が上がらないといわれ続けている一方で、首都圏にある「新築マンション」の価格は高騰が止まりません。一体なぜなのでしょうか。そこで本記事では麗澤大学未来工学研究センターで教授を務める宗健氏の著書『持ち家が正解!』(日経BP)から一部抜粋して、バブル期以降の首都圏全体における「不動産価格」の推移について詳しく分析します。
首都圏「新築マンション」の平均価格は〈バブル期〉よりも高い!?「平均給与」は上がらないのに新築マンションの価格が高騰するワケ
実は、多くの人の給料は大きく上がっている
統計理論の記述統計では、平均値や中央値、データの分布といったことは極めて重要だが、一方でコーホート分析と呼ばれる、同じ時期に生まれた人を時系列で追っていく分析や、同一の個人を時系列のデータとして扱うパネル・データ分析と呼ばれる手法がある。
そして、給料が上がっているかどうか、という観点では、全データの記述統計としての平均と、世代としての変化を見るコーホート分析や個人の変化を見るパネル・データ分析では全く違う結果になる。統計データをどう扱うかで、結論が正反対になるのだ。
実際、賃金構造基本統計調査の年齢階級別の年収を見ると以下のような変化となっている。
・45〜49歳の年収は、1999年に602.7万円だったものが、2009年には580.8万円へ3.6%下落した。しかし2019年には615.6万円となり、1999年と比べて2.1%増となっている。
約25年前の1999年に25歳だった人は、2019年には50歳近くになっているわけで、年収で見ると389.9万円が615.6万円と225.7万円増えて約1.6倍になっている。もちろん、企業規模や雇用形態、職種等によって水準は異なるが、一人ひとりの個人で見れば、年齢が上がったことで、給料は大きく上がったことになる。
全体の平均で見れば、確かに20年前から給料はあまり上がっていないのだが、日本企業の給与体系には、正社員を中心にまだまだ年功序列が根強く残っているため、年齢が上がるとともに給料が上がる構造が温存されている。
結局、多くの人は、少しずつだが給料が上がっている。しかも共働き率が上昇し続けていることから、家を買うような世帯の年収は、上昇し続けている、ということになる。給料が上がっていない、というのは、単なる統計上の平均の話なのだ。
そもそも日本は、欧米のような年齢に関係なく給与が決まるジョブ型雇用の社会ではないため、平均値による単純な経年比較はなじまない。しかも、定年後の給与は大幅に下がることが多いため、高齢者が増えれば全体の平均は下がっていくのは当たり前なのだ。
とはいえ、新築マンション価格が20年で2倍近く、この10年でも1.5倍になっているのは、さすがに上がり過ぎではないか、という意見もあるだろう。
しかし、2019年の全国家計構造調査では、東京都の2人以上世帯の一般世帯で50-54歳の世帯平均年収は1000万円を超えており、2017年の就業構造基本調査の結果では、東京都の共働き世帯年収の最頻値は1000万円以上1200万円、構成比は16%となっている。
そして、年収1000万円以上の世帯数の絶対数はなんと68万4800世帯となっている。
首都圏の新築マンションは高騰したとはいえ、買える人はまだまだたくさんいるのだ。
宗 健
麗澤大学未来工学研究センター
教授