「GAFAM」の隆盛と「ABS」の普及

バブル経済で絶好調とはいえ、日本が先端技術を使ったキラーコンテンツを提案できなかった例もあった。ここでは侮れないフロントランナー米国と、自動車発祥国ドイツの例を見ていこう。

アメリカはどのようにIT産業で世界をリードする存在になったのか。IBMの創業は1911年のニューヨークで、パンチカードによる集計システムの開発・販売で大企業に成長し、大戦中は米軍向けの兵器開発に貢献した。そして1981年、パーソナルコンピューター(PC)を発売した。OSはマイクロソフトのMS-DOS、頭脳はインテル製だった。

そのインテルは68年にシリコンバレーで創業し、71年に世界初のマイクロプロセッサーを開発した。マイクロソフトの創業は75年で、現在も続くOS「ウィンドウズ」を85年に発表した。創業者の1人で世界長者番付の常連、ビル・ゲイツを知らない人は少ないだろう。そしてパソコンのみならず、スマートフォンでも有名になるアップルを故スティーブ・ジョブズらが創業したのが、76年だった。アマゾンとグーグルの登場は90年代、フェイスブックの登場は2000年代である。

ジョブズは、ナンバープレートのついていないベンツSL55AMGで出勤していたことで知られている。カリフォルニア州では新車購入後6ヵ月間、ナンバープレートの交付を受ける猶予期間があり、ジョブズは同じ新車を半年で次々に乗り換えていた。SL55AMGは500馬力の高出力だが、オートマ変速をF1マシンのようにハンドル後ろのパドルシフトで楽に操作でき、足回りの固さ(車の乗り心地)を電子制御で調整できる、半導体で大量武装した高級スポーツカーだった。

ベンツは、80年代にABS(直訳すると、反ブレーキ・ロック装置)を広く普及させたメーカーである。ABSは、運転手が急ブレーキの際にブレーキを強く踏み過ぎても、車を前に向けたまま安全に止める技術である。自動的にブレーキに毎秒10回前後、弛緩と加圧を繰り返させるため、高速で正確な演算が必要とされる。早くからABSを車に実装したのは米国のフォードやクライスラー、GMであり、起源は軍出身のエンジニアの発明である。

現在普及している自動車用のシステムを最初に実用化したのはドイツの部品サプライヤー、ボッシュである。ボッシュ製のABSは78年にベンツSクラスにオプション設定され、87年にはベンツの全車種に標準装備されるようになった。オートバイの世界では、88年にBMW・K100が初めて二輪用ABSを装備し、すぐに各社が追随した。

鈴木 均
合同会社未来モビリT研究 代表