自信喪失が、さらに頻尿を助長する悪循環へ

脳が膀胱からの信号を受け取り、そこから脳が判断して膀胱に排尿の指令を出すのですから、メンタル面の影響は非常に大きなものがあります。

頻尿・尿もれを起こすようになると、排尿に対して自信がなくなります。

特に外出先では不安になり、「いまのうちに行っておかないと」と、ますます頻繁にトイレに行くことに………。ついにはまだ膀胱に余裕があっても、不安になっただけで尿意をもよおすようになります。なかには水の音を聞いただけで、尿意を感じる方もいます。

肉体的なおとろえから排尿機能が低下することで、メンタルもそれに引きずられるようにバランスを崩し、それがさらに排尿障害を加速するという悪循環に陥ってしまうわけです。

排尿障害は、こうした膀胱の筋力低下、内臓による圧迫、メンタルなどの要因が複雑に絡み合って起こるため、対処が難しい症状なのです。

ちなみに、頻尿の定義はなかなか難しいのですが、夜中に2回以上トイレに行き、生活に支障をきたすのが夜間頻尿。昼は8回以上が頻尿、あるいは排尿障害の目安となります。

では、次はこうした排尿障害に対する治療法についてお話ししたいと思います。

◆自分の“膀胱力”を信じること

 エコーによる検査と投薬治療 

病院でよく行われているのは、膀胱の収縮力の検査です。

トイレ直後、本人が尿を出しきったと思える状態で、エコー検査により膀胱のサイズを測ります。すると排尿直後にもかかわらず、膀胱が収縮しきれずに尿が残っているかどうかがわかります。この様子を見て投薬等の治療が行われるわけです。

 骨盤底筋体操 

女性の場合は内臓の下垂を改善する「骨盤底筋体操」というのがあります。肛門と膣を締めながら行う運動で、ネットで検索すると詳しいやり方が紹介されているはずです。

夜寝る前、または朝、布団の中で仰向けの姿勢のまま、お尻の穴を締めるように力を入れながら、軽くお尻を持ち上げます。数秒お尻を持ち上げたあと、楽にします。これを10回ほど繰り返しましょう。

イラスト 加藤陽子
[図表]骨盤底筋体操 イラスト 加藤陽子

朝はまだ体が硬いので、少し軽いストレッチをしたあとに取り組んでくださいね。

ほかに、電車に乗っているときにつり革につかまりながら、同じようにお尻の穴を締めるように力を入れ、かかとを少し浮かせて立つ動作もおすすめです。

すぐには効果が出ないと言われていますが、私の周囲では、朝にやっておくと、その日は調子がいいという声をよく聞きます。

 膀胱トレーニング 

それから「膀胱トレーニング」というのも行われています。尿意を感じたら5分から10分だけ我慢する、という簡単なものです。

これは膀胱の機能回復と、メンタル改善の両方に有効です。

膀胱にはもっと尿を溜める余力があるにもかかわらず、すぐに尿意のスイッチが入ってしまうのが頻尿のよくあるパターンです。そこをちょっとだけ我慢することで、膀胱の尿を溜める機能を呼び起こすわけです。

これは我慢する経験を積み重ねることで、不安からすぐに尿意のスイッチが入ってしまう習慣から脱することにもつながります。自信喪失状態から、自分の膀胱への信頼を取り戻すメンタルトレーニングとも言えます。

極端な水分の制限は危険です

とにかく排尿障害については原因もさまざまな上に、それらが絡み合うことも多いので、一概に対処法を言うのは難しいものです。お悩みの方は“悪循環”に陥る前に、一度、泌尿器科(ひにょうきか)にご相談することをおすすめします。

問題が問題だけに、女性は診察台に上がるのが恥ずかしくて病院に行きにくいかもしれませんが、最近では「女性泌尿器科外来」というのも増えています。ここでは婦人科並みのプライバシーへの配慮が行われています。不安な方は、こちらでご相談してはいかがでしょうか。

なお、トイレの回数を減らすために水分を控える方がいらっしゃいますが、腎臓を守るためにも水は必要なので、1日に1~1.5リットルは飲むようにしてください。ただし夕方からはやや控えめに。カフェインやアルコールも避けたほうがよいです。

歳をとればある程度の排尿障害は仕方がないのですが、夜中に二度三度とトイレに行くようでは、昼間の生活がつらくなります。映画やコンサートも、トイレを気にしていては楽しめません。

中高年からのクオリティ・オブ・ライフを維持するためにも、“膀胱力”を高める努力はしておきたいものです。

常喜 眞理
家庭医、医学博士