近本と中野拓夢の絶妙な仕掛け

近本と中野拓夢の1、2番は素晴らしい。近本が仕掛けを遅らせることによって、中野にすごく打ちやすい間を与えている。近本の仕掛けが早ければ、中野自身、仕掛けを早くすることはできない。近本が間をつくってくれるため、中野の仕掛けるリズムを早くしても問題ないのだろう。近本はボールの見極めといい、中野にいい間でバトンを渡している。

その間とは、もっとわかりやすくいうと、1球目から仕掛けられるということだ。

投手は、基本的に1球目は甘くて、だんだんと厳しいコースにボールを投じる。投手は1球目からギリギリのボールを投げない。なぜなら、1球目からウイニングショットを見せたら、それよりいいボールを投げないと、打者に見極められてしまうからである。

1、2球目のストライクを取ってくるボールが、甘いところから両サイドに広がっていって、ウイニングショットにつながっていく。だからツーストライクピッチャーとよくいうのは、ツーストライク目に最高のボールを投げすぎてしまい、投げるボールがなくなって真ん中に投げて打たれるのだ。

それ以上のいいボールは、ストライクからボールになる球種でしかない。しかし、好打者はそれを見極めるだろう。だから近本はボールを見極めて間をつくることによって、中野の早い仕掛けのリズムをつくっていけるのだ。

1番打者の近本の前の打者は、9番の投手である。打席に入った投手を休ませる必要も生じる。投手が打席で打ち、全力疾走をした後、1番打者は1球目から打てるだろうか。そこで近本が間をつくってくれれば、中野は躊躇なく仕掛けられる。

ドラフト6位の中野は、新人にして難しいショートのポジションを奪取。30盗塁で、2001年の赤星憲広、2019年の近本以来の「新人盗塁王」に輝いた。

だが、岡田監督は中野の肩の弱さを見抜き、セカンドへのコンバートを決めた。平田勝男ヘッドコーチは中野を「菊池(10年連続でゴールデン・グラブ賞に輝いた広島の菊池涼介選手)以上の選手に育てる」と言っている。

このコンバートは中野自身から捉えると、セカンドのポジションは終着駅である。セカンドから別のポジションへのコンバートは、まずあり得ない。中野自身にとって、彼は終着駅のポジションで守っているわけだ。それが彼の危機感を生んでいる。

このセカンドのポジションは誰にも渡さないという決意だ。ここしかないんだという最後の砦である。だから随所に好プレーを連発して、頑張れる。セカンドに行ったことで、逆にいい意味の危機感を抱いているはずだ。

WBCでソフトバンクの近藤健介選手と一緒にプレーして、同じ左バッターとして学んだこともたくさんあるだろう。近藤選手の打席は三振しようが、凡打になろうが、ヒットを打とうが、すごいの一言に尽きる。阪神の選手は見習うべきだと解説したことがある。

近藤選手は三振の仕方からも学べる選手である。自分がボールと思ったら、振りにいかない。審判はストライクをコールして結果としては見逃し三振なのだが、自分の選球眼を信じきる三振に近藤のすごさを感じた。だからこそ4割以上の高い出塁率につながるのだ。

掛布雅之

プロ野球解説者・評論家