日本の社会は、ICTを活用して少子高齢化やインフラ老朽化などによって生じる諸問題を解決しながら、街が新たな価値を生み出し続けるための「スマートシティ構想」を進めています。この構想の実現に不可欠とされるのが、交通や医療機関など、分野を超えて集積・分析した情報を活用するためのプラットフォームである「都市OS」です。21年度末までに累計46の地域が都市OSを導入しており、政府は25年度までに100の地域にこれを導入することを目標にしています。スマートシティとはどのようなものなのか、どこまで実現しているのか、本稿でその一端をみながら、ICTによって未来の街がどう変わるのか考えます。
“スマートシティ”を支える「都市OS」とは?… ICTで〈未来の街〉はどう変わるのか (※写真はイメージです/PIXTA)

市民参加型のスマートシティに生まれ変わった会津若松

スマートシティに話を進めましょう。内閣府はスマートシティについて「ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場」と定義しています※2

 

そして、これを支える都市OSの特徴として次の要点を掲げています。(カッコ内は筆者が追記)

 

  • 相互運用 (複数サービスが共有して連携できること)
  • データ流通 (ほかの都市とも広く連携できること
  • 拡張容易 (分野や事業を超えて、官民学で連携できること)

 

スマートシティの効果が認められた最初の事例としては、福島県会津若松市が挙げられます。歴史と観光のまち「会津若松」では、東日本大震災が発生した2011年からアクセンチュアらが「震災復興支援」を行い、その際に先端ICTを駆使し「市民参加型のスマートシティ」として生まれ変わることとなりました。

 

(出典:アクセンチュア)
2020年当時のスマートシティ構想の成果 (出典:アクセンチュア)

 

日本の都心部への一極集中の現状を変えるべく、会津若松の地方創生を意識し、自立分散社会型のスマートシティをめざしたアクセンチュアは、「ここで重要となるのが『市民主導』であり、『市民参加型』のイノベーションである。当事者である市民を置き去りにするのではなく、市民の同意/許諾を得ながら進める『オプトイン』方式をとった」と語っています。

 

地域の資源も再確認し、会津地域の再生可能エネルギー、ICT専門の会津大学の変革、日本でもっとも重要な課題の1つである充実した医療環境、さらには歴史・文化・観光・自然・農業のICTによる支援を構築しました。

 

同社は「電気やガスメーターのデータ、バイタルや電子カルテの診療データなど、日々のビッグデータの発生源と所有者は多くのケースで市民そのものであり、リアルタイムで発生する自分たちのデータを地域のために提供することに市民が同意する市民参加型のオプトインでなければスマートシティは成立しない」と続けています。

 

スマートシティの事例として世界的に注目されるようになった会津若松の都市OSプラットフォームやAPIを、今後同社は全国へと展開していく考えです。これは、地域ごとに個々にプラットフォームを開発していたのでは情報が分散し、データの共有にも支障が出て多額のコストがかかるためであり、プラットフォームやシステムの標準化は必要不可欠、という考えに基づくものです。

 

もちろん、スマートシティ構想や都市OSは各地域や自治体、官民学が足並みを揃えて開発・参加して創造する必要があります。セキュリティについても十分な議論が必要であり、多くの課題が横たわっていますが、今後豊かな社会をめざすには必要不可欠な存在といえるかもしれません。

 

※2:出典:https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/

スマートシティのさらに先、「スーパーシティ」へ

 

内閣府は、スマートシティのさらに先「スーパーシティ」構想への発展を見込んでいます。

 

スーパーシティ構想とは、AIやビッグデータを活用し、社会の在り方を根本から変えるような都市設計の動きを内閣府がとりまとめたもの。アクセンチュアもスーパーシティ構想の実現を推し進めるために、政府や地方自治体にさまざまな規制緩和を働きかけていく考えを示しています。

 

【スーパーシティの基本的なコンセプト】(内閣府のホームページより)
1.これまでの自動走行や再生可能エネルギーなど、個別分野限定の実証実験的な取組みではなく、例えば決済の完全キャッシュレス化、行政手続のワンスオンリー化、遠隔教育や遠隔医療、自動走行の域内フル活用など、幅広く生活全般をカバーする取組みであること
2.一時的な実証実験ではなくて、2030年頃に実現され得る「ありたき未来」の生活の先行実現に向けて、暮らしと社会に実装する取組みであること
3.さらに、供給者や技術者目線ではなくて、住民の目線でより良い暮らしの実現を図るものであること

 

スーパーシティはこの3要素を併せ持ったものであると定義しており、これを「まるごと未来都市」と呼びます。スーパーシティ構想とは、地域と事業者と国が一体となって「まるごと未来都市」の実現をめざす取り組みといえます。

 

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<著者>
神崎洋治

TRISEC International代表取締役
ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。
1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。
「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。